虎の意外な“戦力補強”とは…
阪神は時々ファンを失望させる継ぎはぎ補強をすることがある。近年も確かにあった。わざわざ晩年の投手を引っ張ってきて目先のウイークポイントを埋める。センスのない「買い物」はチームに冷気を漂わせるだけだと感じてしまうのだが、今回はカネのかからない“補強”に成功したのではないだろうか。
平田勝男ヘッドコーチ(55)の「加入」がチームの雰囲気をガラリと変えたのだ。昨季まで2軍監督として若虎を厳格指導。その鬼軍曹ぶりは1軍にもとどろいていた。オフの配置転換を聞いたときは、平田流が主力選手の中でどんな化学反応を起こすのか興味があったのだが、ふたを開けてみれば、アレ!?少々拍子抜けしてしまった。「オレは黒子に徹するよ」。新ヘッドコーチ就任時にそう語っていた通りスパルタ式は陰を潜め、徹底して選手の激励役を担っている。
キャンプ中のムードメーキングはMVP級だった。メディアの見えないところでは厳しい言葉も飛んでいるのかもしれないが、グラウンドでは若手選手以上に声を張り上げ、ミスをしてもウイットの効いた鼓舞で、特に一軍当落線上の若手選手たちをうつ向かせなかった。
主力に対しても遠慮せず、かと言って上からでもなくゲキを飛ばす。そんな姿に球団関係者は「ヘッドが一番目立っているけど、こういう目立ち方なら大歓迎だよな」と好評価。主力選手の1人は「すごく(気持ちの)乗せ方がうまいですよ」と話していた。
平田イズムの浸透はグラウンド外でも顕著だった。阪神キャンプのファンサービスにはこれまで悪評もささやかれていた。訪れるファンの数が多いこともあり、練習中のサインは球団から制限を設けられることもあった。
不公平なくサインに応じれば練習中の選手は長時間の頓挫を余儀なくされるため、球団は選手に写真カードを持たせ、それをファンに配るなど善後策をとってきたのだが、平田ヘッドは持ち前の快活なキャラでこれを豪快に解消してしまった。
ある若手をつかまえたときは「おい○○、サインしろよ!オレみたいなイケメンなら分かるけど、お前みたいな顔でもサインを欲しがってくれるファンがいるんだよ。ありがたく思え!」などと、嫌みのないジョークを交じえてファンサービスを積極的に促したのだ。
オフにFA選手にフラれまくり、今のところ目立った戦力補強はゼロ。このままいけば、ほぼ現状維持のまま開幕を迎えることになるのだが、1カ月間のキャンプ取材を終えてみて、明らかな「変革」を感じ取ることができた。
デイリースポーツ評論家の金本知憲氏(46)は、昨季3割打者なしでリーグを制した巨人の強さは「原監督の厳しさが醸し出すチーム内のピリピリ感も大きいのでは」と話す。平田ヘッドと言えば阪神がリーグ優勝した03年に星野監督の専属広報を務めていたイメージも強い。闘将とは明大の先輩後輩の間柄でその魂を受け継ぐだけにシーズンの勝負どころになれば「黒子」とは違う、もう一つの顔をのぞかせることもあるだろう。
“補強”の目玉、平田ヘッドコーチの手腕次第では、オフに脇役を強いられた阪神がシーズンで主役を演じるかもしれない。
(デイリースポーツ・吉田 風)