キズナはなぜ大阪杯で負けたのか
阪神競馬場のスタンドに悲鳴と怒号が響き渡った。単勝1・4倍の断トツ人気を背負った5日の大阪杯。前走・京都記念で3着に敗れたキズナにとって、絶対に負けられない戦いだったはずだ。しかし、結果は無情にもラキシスに2馬身突き放されての2着。第80代日本ダービー馬が、牝馬に力負けという形で復帰2戦目を終えた。
なぜキズナは負けたのか。まず最初に挙げられるのは不良馬場だろう。13年凱旋門賞・仏G1の前哨戦となったニエル賞・仏G2は重馬場でV。これで道悪OKのイメージがついてしまったが、日本の道悪とフランスのそれとでは質が違う。
「日本の(芝の)道悪は粘っこいから。それに、1角では耳を絞っていたし、2角では飛んできた泥を嫌がって首を振っていた。ああいう馬場は好きじゃないんだろうね。勝ち馬とは適性の差が出たよ」と佐々木晶三調教師は分析する。
体形的にも、マイラー色を隠し切れなくなってきている。筋肉量がアップしたことに比例して瞬発力は強化されたが、使える脚の持続時間は短くなってしまった。だから、届くと思って仕掛けたつもりでも、ラスト1Fで失速してしまう。この点についてはトレーナーも「もともとマイラーだって、僕はキズナが3歳のときから言っているよ」と認めている。
後方から豪快に先団をのみ込むスタイルにも限界が見える。若駒同士なら大胆な大外一気が通用しても、歴戦の古馬相手ではそうもいかない。これは同じディープインパクト産駒のハープスターなどにも言えることだが、戦法を変えれば解決するほど単純な問題でもないだけに厄介だ。
骨折箇所を気にして、馬が自ら精神的なブレーキをかけているという説も考えられるだろう。ただし、これは師が「その可能性はあると思う」とした一方で、主戦の武豊騎手は「そういう感じはなかった」と意見が分かれた。
どの理屈も納得できる部分があり、単一ではなく複合しているのかもしれない。ただ、私個人の考えとして、もっと根本的、大局的なところに敗因が潜んでいたと踏んでいる。それは昨年暮れの段階で、キズナが歩む1年間のローテが決定、発表されてしまったことだ。
京都記念~大阪杯~天皇賞・春~宝塚記念~フォワ賞~凱旋門賞~有馬記念~引退。最大目標は秋の凱旋門賞で間違いないのだが、馬は生き物である以上、ゲームのごとく調子をキープしたり、思いのままに強弱をつけるなど不可能。ましてや骨折により、あわや競走能力喪失の危機にさらされたダービー馬だ。“まずは無事に”という意識が常に先立つのは自然なこと。ローテ消化が至上命令となれば到底、隙のない仕上げなどできなくなる。
このあとはディープインパクト産駒にとって鬼門となっている天皇賞・春(5月3日・京都)、そして宝塚記念(6月28日・阪神)が控える。特に春盾の3200メートルは今のキズナにとってきついとしか思えないが、後世に語り継がれる名馬はみな、机上のデータや常識をいとも簡単にぶち破ってきたものだ。そして、これまであまたの重賞馬を送り出してきた佐々木師、日本が誇るレジェンド・武豊がG1の舞台へ無策で臨むはずはない。府中で14万人の心を一つにしたスターホース。その真価を試される日が刻々と迫っている。
(デイリースポーツ・長崎弘典)
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