iPadが支えた県岐阜商・高橋の飛躍
高校野球指導の現場にもデジタル化の波-。今春のセンバツで8強へ進出した県岐阜商。その原動力となったのが、エース・高橋純平投手(3年)だ。その飛躍を支えているのが、同校OBで元監督の太田郁夫コーチ(61)。投手指導を受け持つ名伯楽が必ず携えているのが、動作解析のアプリが搭載されたタブレット端末だ。
ブルペン投球の合間、興味深そうに高橋がタブレット端末の画面を見つめる。タッチペンで何かを書き込みながら、フォームを説明する太田コーチ。記されていたのは投球フォームの修正ポイント。これが昨年から高橋の飛躍を支えてきた。
「去年の夏くらいに巡回コーチの方が来られて、その人が使っているのを見ていいなと思った」と明かした太田コーチ。使っているのは“Coach’s Eye”というiPadのアプリで、撮影した動画をスロー再生できるだけではない。動画にタッチペンで線を書き込めたり、2つの動画を重ねて再生することもできる。
例えば好調時の投球フォームと、不調時の投球フォームでどこが違っているのか-。重ねてスロー再生することで、修正ポイントは明白になる。実際に太田コーチのiPadには高橋が入学してきた直後からの映像を蓄積。1年春で最速145キロを計測しながら、2年時は伸び悩んだ。
アーム式の投球フォームが原因で、昨夏は「連投できるような力はなかった。力みすぎて引っかくようなフォーム。1試合投げただけでヘロヘロになっていた」と太田コーチは言う。就任後、高橋に動作解析を用いて問題点を指摘。「1年生の時はいいフォームで投げられていたわけだから」と、体をしっかりと回転させることで、肘から先に出てくるように矯正した。
以降は高橋本人が「スピードよりも、いかに脱力してキレのいい球を投げられるか」と、ゆったりしたフォームから伸びのあるボールを投げられるように目標を設定。今春のセンバツでは最速150キロを記録し、対戦した打者の打球音が鈍い音を奏でたように、直球にはキレと角度を兼ね備えていた。
もちろん動作解析だけでなく、太田コーチには県岐阜商や岐阜城北を甲子園に導いた経験と確かな手腕がある。ただ高校野球の現場では、特に野手出身の指導者が投手の指導に二の足を踏むケースが多い。ピッチャーにしか分からない繊細な感覚、右利き、左利きの違いだけでもアドバイスする内容は大きく違ってくる。
そんな中、“Coach’s Eye”があれば、実際に動画を見せることで生徒の指導に説得力も出てくる。太田コーチのタブレット端末にはヤンキース・田中など一流投手の投球動画も保存されている。具体的に比較することも可能だ。一昔前の精神論や根性論はそこにはない。デジタル化の波が高校野球の現場に押し寄せている。(デイリースポーツ・重松健三)