規律重視のハリルジャパンに部活の匂い
6月1日から海外組のみで合宿を行っているサッカー日本代表。千葉県内の練習場では、チームを率いるバヒド・ハリルホジッチ監督の熱血指導が日々、続いている。サッカーの練習方法、メニューに関しては監督の個性が出る部分ではあるが、ハリルホジッチ監督の下で行われる練習の光景には、ある記憶が想起される。
FW大迫勇也(ケルン)が苦笑い混じりで代弁してくれた。「部活を思い出しましたね」。3月に行われた就任後初の合宿でも感じたが、指揮官の練習はとにかく一体感を大事にしている印象を受ける。練習前には、必ず監督を中心に円陣を組み、そこからランニングや“ブラジル体操”と呼ばれるウオーミングアップに移行する。今回の海外組合宿では、コンディション調整が主たる目的のため、走りのメニューも多い。フィジカル担当のモワンヌ・コーチの切れの良い笛の音に合わせて、時には苦しそうになるまで追い込む姿は、十数年前に高校の部活で体感した苦い記憶が脳裏に浮かんでくる。
もちろん、部活と言っても、そのメニューは緻密だ。心拍数を測定する機器を用いて、選手個々のコンディションを細かく把握。DF酒井高徳(シュツットガルト)が「数値を取ることはドイツでもあるが、そのデータを選手にもフィードバックするのはあんまり無いですね」と語るように、その数値を選手に伝えるなど存分に活用している。
4月の国内組の候補合宿や、今回もそうだがインサイドキックなどの基礎練習も行う。一見、日本代表選手に改めて教えるものなのかとも思ったが、ハリルホジッチ監督自ら手本を示し、かなり細かく指導を行う。合宿中の食事は決められた時間内にそれぞれが済ませるスタイルではなく「みんなそろっていただきます、という感じでやっています」(代表スタッフ)と規律ある行動が求められる。ミーティングを連日繰り返し、外出は基本的には禁止で、朝の散歩などは許可制。「監督はピッチ上だけでなく、食事会場での振る舞いなど、全部見ているなと思う」とはMF長谷部誠(E・フランクフルト)。そんな決まり事も、どこか部活動の匂いがする。
4月の候補合宿中には、DF槙野智章(浦和)がミーティングの前後に個人面談を受けたという。槙野は「いろいろ響くものがあった。監督に言われたことを所属クラブに帰ってもできるようにしていきたい」と充実の表情で振り返るが、威圧感のある指揮官に個人的に呼び出されるという話には、思わず高校時代には“恐怖の象徴”だった「体育教官室」への呼び出しを連想してしまった。
そんな部活の雰囲気が漂うハリルジャパンだが、選手からの評判は現在のところ上々だ。4月の候補合宿に参加したFW大久保嘉人(川崎)は「日本人にあっていると思うよ。日本人はやれと言われたことは忠実にやろうとする。自由にやれ、が一番苦手だから」。ミーティングでも日本代表の改善点を詳しく、時間をかけて選手に説明するなどしたが「自分たちがダメなところをかなり言われるが、それも自分たちが向上するために必要なことだからと理解できる」と選手たちも口をそろえるなど、指揮官の手法に理解を示している。
「私は負けることが大嫌い。モスクワ(18年のロシアW杯本大会)までは全勝で行きたい」。ハリルホジッチ監督の強烈なメッセージは、年始の風物詩である全国高校サッカー選手権大会の出身校が全国制覇を掲げている様子にも重なる。16日からは、W杯のアジア2次予選もスタートする。本大会までは約3年。ハリルジャパンの進化の過程に注目したい。(デイリースポーツ・松落大樹)