遅咲きの阪神・山本を支えた“人間力”
今季、大学時代にリーグ戦で0勝だった広島の新人・薮田が、巨人戦でプロ初登板初先発初勝利を挙げたことが話題となった。阪神でも同様の経歴で、プロ初先発プロ初勝利を挙げた男がいる。2年目左腕の山本だ。
法大ではリーグ戦の登板は3試合4イニング。1勝も挙げられなかった。王子に入社後、登板機会が与えられると素質が開花。13年ドラフト5位で阪神に入団した。
プロ1年目の昨季は、中継ぎ候補として宜野座での春季キャンプに帯同した。だが、オープン戦で結果を残せずに開幕1軍を逃すと、シーズンでも2試合の登板にとどまった。
ルーキーイヤーはプロの壁にぶつかった背番号47が、2年目は大きく飛躍した。ウエスタンでは防御率0・85(7月4日の昇格時点)。通算4試合目の登板となった7月4日のDeNA戦(横浜)でプロ初先発し、5回2失点でプロ初勝利をつかみ取った。
転機は昨秋だった。フェニックスリーグで先発に転向すると、シュートとフォークを習得。カーブ、スライダー、チェンジアップに加えて2球種が増えたことで、投球の幅が広がった。
今季は久保2軍投手チーフコーチ、香田2軍投手コーチの指導で、フォームも修正した。体重移動の仕方を変え、軸足に体重が乗る方法を模索。直球は平均130キロ台ながら空振りを奪えるキレが身についた。「フォームを1から作り直したことで、調子の波も少なくなったと思う」とも分析する。
また、記者は技術面に加えて、飛躍した要因に一つに、山本の人間性も作用しているように感じる。
ある日の鳴尾浜での練習日。記者が午前中に取材を依頼すると、他社の取材と重なった。すると、先に依頼していた他社の取材が長引いて、昼食の時間が近づいたため、記者は午後の練習終了を待つことになった。
約1時間半後。取材が終わると、山本は記者に対して深々と頭を下げた。「きょうはお待たせして、本当にすみませんでした。またよろしくお願いします」。これは1つの例だが、山本のこのような姿勢はどんな時でも変わらない。いつも誰に対しても気配りができる人間だ。
ファンへの対応はいつも丁寧。チーム内では、先輩からはかわいがられ、後輩からはいじられても笑顔でジョークを返せる包容力を持つ。愛される存在だ。4日のDeNA戦で2本塁打を放った福留は試合後、こう話した。
「何とか勝たせたかった。(勝たせたいと思わせるのは)あいつの人柄だろ」
人間性は野球の技術には関係がない。ただ、山本にはチームスポーツに必要な無形の力を生み出す魅力がある。(デイリースポーツ・西岡 誠)