横山剣の“江ノ島ラーメン事件”とは…
クレイジーケンバンド(CKB)の横山剣(55)がクールスのデビュー40周年記念シングル「泣きながらツイスト」を書き下ろし、8月5日にリリースされる。同日発売されるトリビュート・アルバムにもCKBとして参加。この夏“古巣”に恩返しする格好となった横山だが、若き日のエピソードをクールスのリーダー・佐藤秀光(64)が明かした。
横山はクールスRC時代の1981~83年にボーカルとして在籍。作曲でも早熟な才能を発揮した。加入前は都立の定時制高校に通い、グッズなどを扱う佐藤の店で働きながらツアースタッフとして先輩らを支えた。佐藤は「アイツが行ってた夜学で、俺も一緒に授業を受けたことがある。1人だけ、教室にえらい年取ってるヤツがいるわけでさ。若い時の10歳差は相当違うからね」と、年齢差を越えた絆を懐かしむ。
さらに、横山をハーレーの後ろに乗せて江ノ島に行った時の裏話を披露してくれた。
「ドライブインに入って2人でラーメンを食おうってことになった。アイツが丼を2つ、素手で持って席に戻る途中、手が震えだして『熱(あつ)っ!』と叫んだ瞬間、ラーメンのつゆと麺が丼から飛び出して空中を飛ぶ光景を、俺は生まれて初めて見たね。しかも、そいつが“ベロン”って俺のヘルメットの中に入っちゃったんだから(笑)。ありえないよね。横山は一生懸命に謝ってヘルメットを拭いてくれたけど、ラーメンの臭いはそう簡単に落ちやしない。煮干しの臭いが充満するヘルメットをかぶって東京に帰ったよ」
この“江ノ島ラーメン事件”は、今年出版された佐藤の著書「ハングリー☆ゴッド」(東京キララ社)でも記されているが、同書の「あとがき」でオマージュを捧げた横山のクールス論が的を射ている。革ジャン、リーゼントの“不良”という表面的なイメージではなく、洗練された「青山的メトロ感」がその本質にあると説く。
横山が小学5年生だった頃(71年)、土曜日の放課後に横浜から渋谷を経て地下鉄銀座線で青山方面に向かう際、神宮前(現・表参道)の駅に差し掛かると車内照明が消え、一瞬、非常灯のようなランプがフラッシュした。今では“都市伝説”となっている話だが、実体験した横山は、その光の向こうにクールスの世界と一致する“渦のような何か”を感受したのだという。
その思いが8月5日発売のトリビュート盤で選んだ「恋の炎は燃えて」(75年)に表れている。横山は「過激なまでに洗練されたクールネスはあの時代の神宮前周辺の磁場と見事に一致し、そこにミラクルの数々が起こるべくして起こったんだと思います。果たしてあの時代の空気感を音の中に呼び込めたでしょうか。その辺りがとても気になります。イイネ!イイネ!イイネ!」とコメントした。
さらに横山の書き下ろした新曲入りCDには、佐藤が作詞作曲した「BIGジョー」、ギターのジェームス藤木が作曲(作詞・近田春夫)の「Rock&Roll Love Affair」をカップリング。9月には神戸・チキンジョージ(11日)、名古屋・クラブダイアモンドホール(12日)、大阪・なんばHatch(18日)、東京・EX THEATER ROPPONGI(21日)で行われる記念ライブツアー4公演すべてに横山が参加する。“恩義”というウェットに響く言葉を、彼はクールにさりげなく体現する。
8月12日にはCKBの16枚目アルバム「もうすっかりあれなんだよね」をリリース。98年のデビューからコンスタントに作品を世に送る。歌謡曲、演歌、ロック、ソウル、ボサノバ等、雑多な音楽を消化して日本のポップスに昇華し、文字通りのJ-POPを確立した。その源流の一つはまぎれもなくクールス。“江ノ島ラーメン事件”から続く、終わらない夏が本格化する。
(デイリースポーツ・北村泰介)