東アジア杯での大きな失望と小さな希望

 サッカー日本代表は中国・武漢で行われた東アジアカップを史上初の最下位で終えた。2分け1敗。1勝すら挙げられなかったことも初めてだった。

 大きな失望が残った。初戦の北朝鮮戦(2日)に敗れたバヒド・ハリルホジッチ監督(63)はフィジカルコンディションと過密スケジュールによる準備不足を敗因に挙げた。

 7月29日にJリーグを戦い、翌30日に武漢入りしため、わずか2日間の練習で初戦に臨まざるを得なかった。ハリルホジッチ監督の言い分にも一理あるだろう。だが、コンディションに問題を抱えていたのなら、なぜ序盤からハイペースに仕掛けたのか。結果、終盤には“ガス欠”に陥り、ロングボールの出どころを抑え切れずパワープレーに屈した。ゲームマネジメントの失敗は明らかだった。

 韓国戦(5日)では一転して堅実な戦い方に舵を切った。指揮官はゲームコントロールをある程度ピッチ上の選手に委ねた上で「横にも散らしていけ」と指示。縦一辺倒が目立った北朝鮮戦の反省から低めのブロックでリスクを最小限に抑え引き分けに持ち込んだ。

 韓国のウリ・シュティーリケ監督に「日本が我々をリスペクトして戦術を変えたことは、韓国にとって大きなステップだ」と胸を張られたが、現実主義に徹して勝ち点1を手にしたハリルホジッチ監督は「少し満足するべき。リアリストにならないとハイレベルな大会で結果は出ない」と前向きに語った。

 試合展開や状況に応じた試合運びは、理想が先立ち『自分たちのサッカー』という言葉が一人歩きしたW杯ブラジル大会からの前進と言えるかもしれない。ただ、韓国戦は引き分け以下なら優勝の可能性が消滅する一戦だった。東アジア杯の優勝を逃したところで何かを失うわけでもないが、今後の戦いを見据えた時に『勝ち点3が必須条件』といった状況を想定した絶好のシミュレーションとなったはずだ。

 ハリルホジッチ監督は3枚の交代カードを前線の選手に費やし、劣勢の中でも1点を狙いに出た。だが、選手はリスクを冒すプレーを極力避けた。試合後には「最低限勝ち点1を取ることも大事」「1試合目より状況に応じてプレーできた」といった声が聞かれ、ベンチとピッチで若干の温度差が感じられた。

 最下位が決まった中国戦後には「大会に向けてあと2、3日余分に準備できれば、この3試合はまた違う結果にすることができた」と再び準備不足を嘆いき、「言い訳をしていると言われているが、それに対しては怒りたい。私は少しフットボールを知っている。チーム全体でトレーニングする時間が欲しいということだ」と気色ばむ場面も見られた。

 大会を通じて曖昧だったのは東アジア杯の位置付けだった。7月23日に行われた代表発表会見の席上でハリルホジッチ監督は「大事なのは結果。結果を探しながら新しい選手を見つける。A代表には結果が最も大事」と語っていたが、「結果」と「新戦力」の両方を求め、結局どっち付かずとなってしまった。

 結果を重視していたのなら、韓国戦後の「少し満足するべき」、中国戦後に発した「そんなにガッカリしていない」などの言葉は説明がつかない。新戦力のテストにしても、DF水本裕貴(広島)、MF米本拓司(FC東京)らは一度もピッチに立たせなかった。大会前「3つのオーガナイズを用意している」と語っていたものの、ベースの布陣はそのままに選手の組み合わせを変えただけ。その一端を垣間見ることはできなかった。チームを“チャレンジなでしこ”と名付け、GK武仲麗依(仙台)を除く22人の選手を起用してリオ五輪アジア最終予選を見据えた若手のテストを貫いた「なでしこジャパン」の佐々木則夫監督とは対照的だった。

 もちろん、就任5カ月のハリルホジッチ監督と8年目の佐々木監督を同列に論じるのは公平ではない。ハリルホジッチ監督にしてみれば一人でも多くの選手を手元に置いて特徴を把握している段階で、「時間が必要」ということも理解できる。

 それでも、代表は何時も勝利が求められる存在のはず。アジアの舞台ではなおさらだ。たとえ準備期間が短くとも、新戦力テストの試合であろうとも、目指す先は勝利であってほしい。極論になるが“言い訳”とされたハリルホジッチ監督の言葉も、勝ったなら全て正当化される。代表にとって勝利とはそれほど重みがある。佐々木監督がW杯や五輪で勝ち続けたことによって、東アジア杯をテストの場に使うことの理解を得られたように。

 大半の国内組がA代表定着のチャンスを生かせなかったことは、Jリーグにとって小さくない損失となった。13年の前回大会。W杯ブラジル大会を翌年に控えた東アジア杯は、国内組の新戦力にとってブラジル行きの切符を懸けた事実上の最終選考だった。そんな中、大きな期待を集めた初選出のFW柿谷曜一朗(当時C大阪)は「Jリーグの選手で行って優勝できんかったら、Jリーグが弱いと思われる。それは絶対に嫌や」と漏らしていた。代表定着への思いはもちろんあったが、Jリーグを背負う責任と重圧も感じていた。

 今大会でもGK西川が「僕らが勝たないとJリーグが盛り上がらない」と話していたが、果たして何人の選手がJの代表を自負していただろう。近年アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で苦戦が続き、国内組で臨んだ東アジア杯も無残な結末を迎えた。日本代表を支えるJリーグという土台が揺らいではいないか。

 「なでしこジャパン」が逆転負けを喫した韓国戦後、チームの若さや経験不足を指摘されたMF中島依美(INAC神戸)は「国を背負って来ているので言い訳は許されない」と毅然として言った。女子サッカーを文化とするため、勝ち続けることが半ば義務付けられている「なでしこ」の悲壮な覚悟だった。

 翻って日本代表だ。ハリルホジッチ監督は選手に対して「代表には簡単に席はない」と言った。限られた椅子を奪い取る野心を、国やJリーグを背負う気概を、感じさせた選手はごくわずかだった。大会前、「A代表に50%くらいの国内組が入ってくるだろう」と楽観していた指揮官の期待は裏切られた。

 9月からW杯アジア2次予選が再開し、同月3日には埼玉にカンボジアを迎える。国際Aマッチデーは31日からとなり、試合までの準備期間は3日間。シンガポール戦、東アジア杯に続く失態が許されないハリルホジッチ監督が示す“答え”はおそらく『海外組』ということになる。一体、東アジア杯で得たものは何だったのだろう。

 小さな希望は見えた。2得点で得点王に輝いたMF武藤雄樹(浦和)、右SBとボランチで全3試合にフル出場したDF遠藤航(湘南)の初選出コンビはハリルホジッチ監督にとっても嬉しい発見となった。3試合フル出場で代表初ゴールを決めたMF山口蛍(C大阪)も、あらためてボランチの定位置を争うにふさわしい存在であることを証明した。彼らは「真のA代表に入れる2、3人の本当に良い選手」として指揮官の脳裏に刻まれたはずだ。3年後、彼らがロシアのピッチに立つことが、今大会のわずかな救いとなってくれるだろう。(デイリースポーツ・山本直弘)

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