【芸能】「落語心中」のリアルさに迫る
アニメの題材としては地味に思える「落語」を真正面から扱っている作品が話題となっている。雲田はるこ原作の「昭和元禄落語心中」で、現在は金曜深夜(土曜未明)にMBS、TBS系列で放送されている。落語や落語家がふんだんに登場するというだけではなく、担当声優が真剣に根多(原作ではこう表記される)を演じるのが従来の作品と一線を画しているところ。矢田晶子プロデューサー(キングレコード)に、制作する上で心がけていることを質問した。
芸能界でも「-落語心中」に注目している人は多い。元SKE48の松井玲奈、バンド・SEKAI NO OWARIのメンバーDJ LOVEといった顔ぶれがツイッターでファンを公言。落語家として芸歴をスタートさせた伊集院光も「本職をやった人でも全然いける」とそのリアリティーをラジオで絶賛している。
多くのファンを獲得しているのは事実だが、そもそも、落語をアニメとして映像化しようとした理由は何か。矢田プロデューサーは「ストーリーの重厚さや登場人物が魅力的かつ、雲田先生の落語への深い愛情が感じられる素晴らしい原作でしたので、ぜひ映像化したいと感じました」と説明する。
物語は昭和50年頃、刑務所を出所した元チンピラ・強次が昭和最後の大名人とうたわれる落語家・八代目有楽亭八雲の元に転がり込んで弟子入りを請う場面から始まる。「与太郎」の名を与えられた強次は前座として修業に励むが、ある事件が理由で破門にされかけてしまう。食い下がって頭を下げ、何とか許しを得た与太郎だったが、このことがきっかけで師匠・八雲が自身の若かりし日を語り始める。
現在放送中のテレビアニメシリーズは、戦後の日本を舞台に、八代目八雲の前座・二つ目時代である菊比古と、同日入門で天才的なセンスを持つ初太郎(後の二代目助六)、そして、元芸者の「みよ吉」という3人に芽生える友情、嫉妬、愛情といった愛憎を中心に描いている。
作中に登場する落語は、題目だけを唱えておざなりに編集…という表現方法はとられていない。第1話で与太郎が「出来心」を演じるシーンは1時間弱の放送時間のうち10分以上にもわたっており、スタッフの本気度がうかがえる。矢田プロデューサーにとっても「もちろん原作が持つ魅力があってこそですが、アニメーションでここまで本格的に落語のシーンを描いた作品は他に見たことがない、という衝撃が、今のご反響をいただいている理由の一つだと考えます」という自慢のポイントだ。
ここまで落語にこだわると腕が問われるのが声優陣。今回はオーディションの際、ある落語の根多の音声データを参加者に手渡し、その中から3分間、自由に抜粋して声優が自分の声で吹き込む、という形がとられた。枕、話の構成、下げ。そうした構成を考える点も「落語を知っているか、落語が好きか」という観点から採用の判断材料にしたという。
例えばメーンキャストの1人、二代目助六を演じる山寺宏一は数え切れないほどの出演歴があり、テレビ番組での物まね、音まねなどでもみせる名人芸がアニメファン以外にも知られているが、その山寺でさえ、オーディションを経ての起用だ。実は東北学院大学の落研出身という経歴もあり「必死のオーディションで勝ち取った」(山寺のツイッターより)と役への愛着を表現している。
そうしたキャストの熱演のもと、そして「とことん落語をちゃんとやる」という制作方針のもと、「-落語心中」はつくられている。江戸なまりはもちろん、落語家の細かな所作も落語監修に林家しん平がつき指導。原作ファン、落語ファンを両方取り込めるような作品作りに腐心したという。矢田プロデューサーは「この作品をきっかけに『落語って面白い』『実際に見てみたい』と感じていただけるようなフィルムになればと思います」と力を込めた。
最近、落語を題材にした作品が増えている。森田芳光監督の映画「の・ようなもの」の続編、「の・ようなもの のようなもの」(杉山泰一監督)が1月16日に公開。昨年末には立川談志をビートたけしが、立川談春を嵐の二宮和也が演じたことで話題となったドラマ「赤めだか」(TBS系)が放送された。まだまだ落語人気は落ち着きそうにない。(デイリースポーツ・広川 継)