【野球】メジャーでは、あれはアウト
11日・阪神-巨人戦の三回、巨人・小林誠の本塁突入プレーに対してコリジョンルールが適用され「アウト」が「セーフ」に逆転したことについて、阪神担当キャップ・吉田風が関係者に徹底取材した。
◇ ◇
試合後、阪神の球団首脳は冷静に言った。
「『審判が絶対』とか、そういう類いの議論ではない。ルールが適切かどうかの話です」-。
甲子園のバックネット裏で、この夜のTG戦を観戦していたメジャー関係者は僕にこう話した。
「アメリカでは、あれはアウト。こんなにひどいジャッジはないね。ファンは高いチケット代を払って…あのプレーでアウトにならないならテレビ観戦でいい」
この男性、熱烈な虎党…ではない。
ランディ・ジョンソンやサミー・ソーサ、A・ロッドら超大物とマネジメント契約を結んでいた、れっきとしたMLB関係者だ。
問題のシーンは巨人1点リードで迎えた三回2死二塁の場面。脇谷がメッセンジャーの変化球をとらえた打球が中堅左へ飛ぶと、これにチャージした大和が好返球。捕手原口はバウンドを合わせるように一度ラインをまたいだが、走者の進入路をあけて捕球。スライディングした小林誠の右足にタッチした。
嶋田球審は間髪入れず「アウト」のジャッジを下したが、一転、この“完全捕殺”が覆ってしまう。三塁ベンチから高橋監督が抗議に出ると4人の審判団が集まり、原口の捕球位置が新ルールに抵触するのでは-とVTR検証に委ねた。
結果、責任審判の杉永二塁塁審は判定をセーフとし、巨人の生還を認めたうえで、原口にはサッカーでいうイエローカード、「警告」を発した。
そもそも、なぜコリジョン(衝突)ルールの議論が始まったのか。簡単に言えば「危険な衝突による選手への被害=大ケガを避けるため」だ。
VTRを見れば、子供たちが見たって、原口のプレーが小林誠に危険を及ぼしたかどうか、一目瞭然。
大和の素晴らしい返球と、新ルールを意識した原口の絶妙なタッチ。ファンが見惚(ほ)れるビッグプレーだったはずが、あっけなくビデオ判定で覆る。これが新ルールでこの先ずっと適用されることになるなら、今オフ、ルール改正の論議を呼ぶことは間違いないだろう。
阪神の矢野作戦兼バッテリーコーチは「野球がダメになる」と言い、高代ヘッドコーチは「幼稚すぎる」と吐き捨てた。
前出の知人は僕とのやりとりでこうも言った。
「ファンは三角ベースを観(み)に来ているんじゃない。クロスプレーは野球の醍醐味(だいごみ)」
米国で本塁での危険なクロスプレーの議論が高まり、2014年のテスト期間を経て15年からコリジョン(衝突)ルールが正式採用されたことを認識したうえで、知人は「アメリカでは今のように走路の(ホームへの)入り口が空いていれば問題ない」と説明してくれた。
彼はかつてNBAのマイケル・ジョーダンやデニス・ロッドマン、格闘家ヒクソン・グレイシーとも契約を交わしていたことがある。ベースボールに限らず、米国におけるプロスポーツの意義を日々考察している人。だからこそ、この夜下された“日本のジャッジ”に幻滅し、「エンターテインメントという概念がないのか。ファンがこれがセーフになることでどう感じるのか」と言い残して球場をあとにした。
選手生命を脅かすような、悪質な衝突を避けるための議論ならば大いに必要だと思う。だが一方で、プロ野球がファンあっての興行である前提をNPBが見失っては、見る者がシラけてしまう。巨人ファンだって「あれはアウトだ」と言わないだろうか。
日本野球機構(NPB)が今回のプレーを本当に危険だとみなし、判定が覆ったこと、警告の対象にすることを適切だと考えるのかどうか。阪神が提出した意見書の公式アンサーを待ちたい。(デイリースポーツ・吉田風)
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