【野球】変わらなかった18歳の意思 日本ハム6位指名を拒否した履正社・山口

 自分の意思が揺れてもおかしくないターニングポイントはいくつかあった。それでも履正社・山口裕次郎投手(18)は、最後まで初志を貫いた。ドラフト6位指名を受けた日本ハムへの入団を拒否。初めて山口を取材した今年4月から、自ら設定したラインを一度も崩すことはなかった。

 「プロへの憧れはありますけど、上位でなければ社会人へと考えています」。初めて取材した際に山口はこう答えた。岡田監督からもその意向を伝え聞いた。夏が終わるまでに、どこまで評価を上げられるか-。それが山口の奮闘へとつながっていく。

 春季大阪大会で頭角を現し、指揮官は大阪桐蔭との決勝戦で山口を先発起用した。結果は1失点完投。ボールの出どころが見えづらい独特の投球フォームから繰り出される最速145キロの直球は、確かな威力を備えていた。近畿大会でも準決勝で完投した後、連投にもかかわらず決勝に先発。センバツ王者の智弁学園を抑え、リリーフした同僚の寺島成輝投手から「ちょっと複雑やわ」と言わしめるほどの好投だった。

 この時点でスカウトの評価も上昇。目標とする3位ラインに山口を置く球団も複数、あった。ただ夏の大会期間中に首痛を発症した影響からか、フォームのバランスを崩した。近畿大会以上のボールを見せることができず、夏の甲子園も常総学院戦で打ち込まれた。評価は当落線上。プロ志望届を提出する前に、岡田監督が意思確認をした。報道陣にも「自分が決めたラインは変わりません」と言いきった。

 なぜ、山口がそこまで順位にこだわったのか-。それは彼自身が“プロに入る”ことが目標ではなく“プロで活躍する”ことを目指していたからだ。ドラフト上位と下位では明確な違いが存在する。球団フロントとしてはドラフト上位選手には活躍してもらわないといけない。入団時に支払われる高額な契約金、年俸、設定される出来高払い。それに見合う活躍を求めるため、下位指名の選手よりもおのずとチャンスは増えてくる。

 10年以上、プロ野球取材をしてきたが、こんなケースを何度も見てきた。ドラフト下位指名選手がファームで結果を残しているにもかかわらず、上位指名の選手が1軍昇格の切符をつかんだ。その後“旬”の時期を過ぎた選手は1軍に上がることができないまま、ユニホームを脱いだ。

 加えて芽が出なかった場合の在籍期間にも3~4年の違いが出てくる。もし大きな故障があれば、下位指名の選手は容赦なく育成契約へ切り替えられる。もちろん、下位指名からはい上がりトッププレーヤーになった選手もいるが、確率的には希少な存在。今年の打撃10傑、投手10傑を見ても大半がドラフト3位以上の選手だ。

 ドラフト直前、岡田監督のもとへ複数球団のスカウトから「4位での指名は可能か否か」の問い合わせが入った。それでも本人の意思は変わらなかった。記者もドラフト前日に山口へ指名順位のことを聞いたが「変わらないです」と言った。

 山口がかたくなに守り通したライン。近年では15年度の西武ドラフト1位・多和田が、中部商時代に育成契約の評価しかなかったため、富士大へ進学した。その球団を見返すという強い気持ちを持ち、4年後に最上位指名を勝ち取った。

 飛躍には欠かせない強い意志-。3年後、山口がどんな選手に成長しているか。入社予定のJR東日本は毎年、プロ選手を輩出しており、環境は整っている。すべてはプロでエースとなるために、18歳の少年は誰よりも厳しい目で自分自身を見つめていた。(デイリースポーツ・重松健三)

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