【スポーツ】マラソン復活への舵取り役 瀬古イズムはマラソンニッポンを救うか?

 日本陸上連盟が低迷するマラソンの再建を目指し新設した「長距離・マラソン強化戦略プロジェクト」のリーダーに、瀬古利彦氏(60)が就任した。マラソン通算戦績は15戦10勝と高い勝率を誇り、かつては“世界最強”と呼ばれた名ランナーに、“お家芸”復活の舵取りは託された。

 マラソンは今夏のリオデジャネイロ五輪で、男女とも入賞なし。過去3大会での入賞者はロンドン五輪の中本健太郎だけで、高橋尚子、野口みずきという金メダリストを輩出してきた女子に至っては3大会連続入賞なしとどん底の状態だ。瀬古リーダーは「僕だって本当は貧乏くじを引きたくないよ」と本音を吐露しながら「でも20年に東京で五輪があるんだから。本当のマラソンを知らない指導者も増えてきている。これまでの経験を生かして、少しでも貢献できればと思う」と、意気込みを語った。

 そして、現在の日本のマラソンの現状を、次々とぶった切っていった。まず大きな課題として、練習量の少なさを挙げ「練習が足らない。練習したら怪我をするって?怪我しないために練習するんだから。指導者も恐れちゃっている。僕らの頃より練習していないのに、怪我をする。今の練習では100年経っても、五輪でメダルなんて取れない」と、キッパリと言い切った。

 さらに話は選手の意識の問題にも及んだ。今年1月の大阪国際で福士加代子(ワコール)が2時間22分17秒で優勝し「リオ決定だべ!」と絶叫していたが、「2時間22、23分で“リオ決定だべ”って…。そりゃQちゃんぐらい走れば決定だけど」と、苦言。マラソンに日本記録は男子が高岡寿成が2002年に出した2時間6分16秒、女子は野口みずきが05年に出した2時間19分12秒で、ともに10年以上更新がない。「僕の時は(ライバルの)宗(兄弟)さんたちがものすごい練習をしていたし、それに勝つために、覚悟を持ってやっていた。僕が中村(清)監督にやらされていたような練習もやらないといけない。女子も有森やQちゃん(高橋)ぐらい練習しないと。Qちゃんはあの練習で(2時間)19分を出した訳だから」と、力説した。

 若手の台頭が乏しい中、マラソンに挑むことへの意識改革の必要性も訴え「僕らの時は、マラソンで駄目なら死ぬぐらいの気持ちだった。マラソンには覚悟がいる」。その上で「必要があれば、僕が各実業団のトップに直談判にいく」と、若い選手に積極的にマラソン挑戦をうながしていく方針を示した。

 課題となるのは実業団との関係性だ。日本陸連はリオデジャネイロ五輪に向けて、14年4月にマラソンのナショナルチーム(NT)を立ち上げた。マラソン復活へ、肝入りのプロジェクトだったが、それぞれのチーム事情を優先したい多くの実業団は非協力的で、あっという間に形骸化。リオ五輪代表の選考基準の中にも、当初はNTメンバーを優先すると書かれていたが、1年後に撤回するという異常な事態になった。NT合宿は年に1、2度程度で、一貫した強化はできず。リオ五輪でも、代表としての活動に入るまで、個々の選手の状態も把握できていない状態だった。

 宗猛前男子マラソン部長は「実業団連合でも毎年2、3回合宿をしているが、それにも参加しないチームがほとんど。チームの方針もあり、実業団のくくりの中でも難しい。きちっとNTで合宿をやって、その中から選手を選ぶのが望ましいけど、現状はなかなかそれが難しい」と、話していた。リオ五輪で左アキレス腱を痛めていた北島は本来なら「完走できるかできないかという状態」だったという。ただ、現状では補欠もおけない。NTで一貫した強化を進め、リオ五輪で初めてメダルを獲得した競歩とは対照的な体制だった。瀬古氏のリーダー起用について、尾県貢専務理事は「色んな視点や知識を持っている。若手コーチの信頼も厚い」と、その“カリスマ性”に期待を懸けた。実業団との関係性も含めて、どう強化システムを作り上げていくのかも、手腕が問われることになる。

 まず試金石となるのは、来年、ロンドンで行われる世界選手権。「覚悟を持ってやる」と話した瀬古リーダー。自ら引きにいった“貧乏くじ”を“当たりくじ”に変えるための改革が、いよいよ始まる。(デイリースポーツ・大上謙吾)

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