何でも知ってる隣のおばちゃん…けれど、医師を信頼していただきたい

 「町医者の独り言・第7回」

 隣のおばちゃんは何でも知っている。

 「先生、血圧の薬は飲んだら一生飲まなアカンやんな!」

 「えっ、誰に聞いたの?」「隣のおばちゃん。」

 「先生、高脂血症の薬って一生飲まなあかんやろ?」

 「えっ、誰に聞いたの?」「隣のおばちゃん。」

 「先生、インスリンって使ったら、もう終わりやんな?」

 「えっ、誰に聞いたの?」「隣のおばちゃん。」

 「先生、がんになったらもう終わりやんな?」

 「えっ、誰に聞いたの?」「隣のおばちゃん。」

 他にも数えきれないエピソードがあります。病棟で進行がんであることを告知せずに抗がん剤の治療をしていた患者さんに対して「あんた、これ抗がん剤やな。大変やな。頑張りや!負けたらあかんで!」って…その患者さんにすれば晴天の霹靂(へきれき)です。もちろん、悪気はないのですが…。

 知りたくなくても色々なところから様々な情報が入ってきます。基礎知識がない一般の人たちが与えられた情報を正しく理解することは難しいと思います。われわれ医師も、薬屋さん(MRさん)から与えられた情報だけを鵜呑みにして患者さんに薬を投与することは危険だと言わざるを得ません。

 今の医療はEBMといって「理論的根拠に基づいた医療」を薦められていますが、EBMは操作することが可能なのです。そこには、医療の落とし穴があるような気がします。われわれは統計学的有意差を用いて、理論を推し進めていくことが多いです。そんな中であってはならないことですが、データは意図的に作ることも可能なのです。ですから、EBMを鵜呑みすることは危険を伴うこともあるのです。もちろん、ほとんどのEBMが最大の善意、最新のデータ、最新の知識を用いて作製されていることは紛れもない事実です。ただ、例外もあるということです。

 時々、おばちゃんでも、われわれ医師が“驚くような情報”を伝えてくれることがあります。医師は基礎知識があるので、ある程度正しく取捨選択することができます。しかし、医学的知識を持ち合わせていない一般の人たちに正しい取捨選択は難しいのです。

 こんな患者さんがおられます。「先生、この薬とこの薬を頂戴!」。ここは、薬局ではないし、劇薬をそんな簡単に渡せません。その理由を分かりやすくお話したつもりですが、時折、激昂される方もおられます。もっとひどくなると、勝手に間違った診断をつけて来院されて、私はこの病気だからこの薬を頂戴とおっしゃる人もおられます。また、私に相談しに来ているふりをするのですが、最終的には自分の考えと違うことを説明すると激昂される患者さんもおられます。

 医師は最大の善意をもって医療行為に臨まなければなりません。それは、患者さんに信じていただくしかありません。確かに医師によって違った考えがありますので、あそこの病院ではこう言われたけど、ここは違うこと言うなぁ…って事は少なくないでしょう。ただ、両方とも正しいことも多々あるのです。

 非常に難しいのですが、最終的には信頼関係のもとに医療行為を行うしかありませんし、私は信じて頂けるように更に精進していく所存です。やや取り留めのない話ですが、最近、診察室で感じたことをお話ししました。

 ◆筆者プロフィール

 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。

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