はしか…実は多くの医師が診察未経験 特効薬もないんです
「町医者の独り言・第10回」
麻疹は以前、小児の病気と言われていましたが、最近流行の兆しがありますね。しかし、実際に麻疹を診察したり、治療したりしたことがある医師は少ないはずです。日本は昨年春、世界保健機関(WHO)から、麻疹が「排除状態にある」と認定されています。私も医者になって麻疹の患者さんは一度しか遭遇したことがないんです。
敢えて「遭遇」と記載したのは、当直しているときに、引継ぎで少しだけ診たからです。高熱、発疹に加え血液検査では重症である感染症の値が出ており、重症感染症の治療を施されていた記憶があります。後に高齢の先輩医師から「麻疹だよ」と教えていただきました。我々のような若い?世代の医者(特に小児科以外)では、診察、治療をしたことがない医師の方が多いのです。麻疹の疑いがあれば、直ちに医療機関で相談することをお勧めします。
麻疹は空気感染しますし、感染力が強いです。感染した人に遭遇した場合、10日前後で発熱、鼻水、結膜炎などの感冒症状が出現すれば要注意です。罹患している可能性が十分にあります。これらの症状が出現すると同時期に口腔内に1ミリ大の白色の斑点が出現します。発熱してから3日後くらいから、耳の後ろ、顔面、頚部、体幹に発疹が広がります。この時期に高熱が4,5日間続き、発疹も次第に消退していきます。その後、発疹は色素沈着を残します。中耳炎、喉頭炎、気管支炎、肺炎、脳炎などの合併症にも注意する必要があります。様々な症状を呈しますし、初診が耳鼻科、眼科、皮膚科などになるケースもあるため、我々医療サイドも麻疹の疑いを忘れず、注意しておくことが必要です。
治療は、基本的に症状に対してのみの治療になります。特効薬がないのです。食事を食べられなければ点滴をしたり、高熱が出れば解熱剤の投与をしたりします。ビタミンAの大量投与が重症化を防ぐとの報告もあります。熱が完全に下がれば、3日目に登校、社会復帰が可能です。
「予防する方法はないのか」という質問が飛んできそうですが、基本的にはワクチン接種が一番の予防です。今回のように集団発生が危惧される場合には、明らかな麻疹患者との濃厚接触、麻疹ウィルスの暴露があった際に72時間以内であれば、ワクチンの摂取が推奨されています。ワクチン接種が出来ない免疫不全患者は、6日以内であればガンマグロブリンの投与が推奨されています。
不安のある方は、医療機関で麻疹抗体を測定して、基準値を満たしていなければ接種することをお勧めします。20~30代でワクチンを1回しか接種していない世代、ワクチンを接種していない人たちは感染のリスクが高まります。ただし、上記の治療はすべて保険がききませんし、現在、麻疹ワクチンは全国的に入手困難な状況です。
一番大切なことは、推奨されたワクチンを取りこぼすことなく接種することです。今回は麻疹で大騒ぎになっていますが、それ以外にも重症化する病気はたくさんあります。日頃の心構えなどが大事であると痛感している次第です。
◆筆者プロフィール
谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。