一翔、判定負けに呆然…悲願は持ち越し
「IBF世界フライ級タイトルマッチ」(7日、ボディメーカーコロシアム)
井岡一翔(25)=井岡=が王者・アムナト・ルエンロン(34)=タイ=に1‐2の判定で敗れ、日本選手としては亀田興毅(亀田)以来2人目の世界3階級制覇はならなかった。プロ15戦目で初黒星。叔父・弘樹氏(45)が果たせなかった井岡家の悲願を託されてリングに上がったが、22年越しの夢は実現しなかった。井岡陣営は王者との再戦を要望した。
井岡家にとって、3階級制覇の壁はこれほどまでに厚いのか。王者の勝利コールが告げられると、一翔はぼう然とした表情で肩を落とし、父・一法会長に付き添われてリングを下りた。
アマ時代に敗れた王者にまたも苦杯。終盤はスタミナに勝る一翔がリードしたかにみえた。10回にはホールド反則で相手に減点。しかし、結果は無情の1‐2の判定負け。「運に見放された。2ポイント勝ったと思った。期待させて申し訳ない」。93年に叔父・弘樹氏が3階級制覇に初挑戦して以来、22年越しの悲願は、またしても叶わなかった。
89年3月24日、弘樹氏も病院に駆け付け見守る中、“運命を背負う子”は生まれた。野球少年だった一翔は父との遊びのマスボクシングで競技に興味を持った。その頃、叔父のセコンドに父が付き、何度も3階級制覇に挑んでいた。
98年4月29日、名古屋。飯田覚士に敗れ4度目の夢も散った時、9歳だった。「車の中のラジオで聞いた。悔しさが今も心に残っている」と一翔。「後で聞いたら涙ぐんでいた」と父は言う。
その涙がボクシングを始めた最大の動機。「3階級は常に心のどこかにあった」。世界王者、2階級制覇と着実に階段を上った。2カ月前、井岡家の故郷、山口県周防大島に墓参り。父と共に村上水軍の先祖に「3階級」を祈願した。それでも夢は遠かった。
プロ15戦目にして初黒星。「アマで負けた相手にまた黒星を付けられて、いろんな思いはあふれてくる。生かして切り替える」と唇をかみしめた。一法会長は「再戦してくれるなら再戦しに行く」と王者へ雪辱マッチを要望した。
前人未到の4階級、5階級制覇を狙う25歳にとって試練。「これで終わらない。また帰ってくる。厳しさは分かったし、必ず3階級を達成する日は来る。その日を信じて頑張っていくしかない」。一翔は運命を自ら拳で打破することを誓った。