【辰吉父子ガチンコ対談・前編】
ボクシングの元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎(44)の次男・寿以輝(18)=じゅいき=が11月にプロテストを受験する。同じバンタム級で、同じ大阪帝拳ジムから日本史上初の親子世界王者を目指して、来春にもプロデビューする。プロテストを前に、デイリースポーツは「父子“拳”対談」を独占取材した。セコンドには、るみ夫人も緊急参戦。12ラウンドのガチンコ舌戦を2日間にわたってお届けします。
◇ ◇
(午後1時に大阪・守口市内の喫茶店で待ち合わせも丈一郎が来ない)
‐デビュー条件の半年で20キロ超の減量(※1)はきつかったか。
寿以輝(以下、寿)「普通にやって落ちました」
(1時40分過ぎ、丈一郎が到着)
‐父子対談です。
丈一郎(以下、丈)「そんなんデイリーの紙面に載せて何がおもろいねん?」
(嫌がりながらも息子の向かいへ。目は合わせず対談のゴング)
【1R】
‐なかなかプロテスト受験にOKを出さなかった。
丈「精神的に宙に浮いてるもん。ボクサーになると決めた以上はボクサーに向けての考えがある。その考えに基づいて、遊ぶなり行動を起こすなりするもの。それが中学を卒業しても、ずーっと親元におる。ずっと飯食わしてもらうの?と。親父としては構へん。恥ずかしいのは寿以輝やねん」
‐自身は16歳で岡山から出てきた。
丈「5500円の片道切符を持ってな。寿以輝は下準備、心の構えができてない」(父の独演で終了)
【2R】
‐寿以輝はどう。
寿「早くテストを受けたかった」
丈「口を挟んで悪いけど言わせて!!プロになりたいなら、なれることせえ!!夜遊びして、朝はよう走らん。そんなやつがどうやってボクサーになれるんや!!」
‐お父さんには毎日言われているのか。
寿「言われてます」
‐反論は。
丈「言いたいことがあるなら言え!!」
寿「ないです」
‐プロテストの許可が出るまで長かった。
寿「やっぱり夜遊びかな?何をするわけでもないけど、友達と遊んだりですかね?」
‐喫茶店で朝からバイトしている。
丈「小遣い稼ぎな。家賃、電気代、ガス代、水道代を払うわけでもない。全部、親」
(父の猛攻を『また始まったか…』の顔で受け流した)
【3R】
‐プロの決心は。
寿「(小学生の時)父には『プロボクサーになる』と伝えていた」
‐最初は兄・寿希也さんに付いてジムに。
寿「ボクシングでつらいことはない。辞めたいと思ったこともない。小さい時も練習は楽しくて、やりたかった。でも、どうさぼろうかな、と。そっちばかり考えていた(笑)」
(寿以輝がペースつかむ)
【4R】
‐父を意識したのは。
寿「(情報・バラエティ番組)『金スマ』の撮影で『ROOKIES(ルーキーズ)』のメンバーに会わせてくれた時(笑)。中学1年生くらいの時かな」
‐父の映像を見たのは。
寿「ユーチューブで中学生になってから。『辰吉丈一郎』で名前を検索したら、ばーって出てきて、すごいと思った」
‐見る目も変わったのか。
寿「小学生までは普通の父ちゃんだったから。試合のビデオは小学生の時から見ていた」
‐自身がリングに上がったシリモンコン戦(※2)も見たか。
寿「普通に自分が出てるーって」
‐父の映像を見たことで変わったか。
寿「真似ているつもりはないけど、左のボディーが似ていると言われる」
丈「同じ左利き。書くときとか右やけど、本来は左利き。左利きの右オーソドックスは一緒やね」
‐父は左のガードを下げて攻撃重視するスタイルを批判されたこともあった。
寿「それでええやん、と思う」
(かみ合ってきた)
【5R】
‐目指すボクシングは。
寿「強いボクサー。倒します」
‐父は現役(※3)。
丈「うっとうしいやろうな」
寿「普通やな、という感じ。何とも思わない」
‐目標は。
寿「世界チャンピオン」
‐父は8戦目だった。
寿「記録とかの意識はない」
‐どんなボクサーに。
寿「KOばっかりしているボクサー。分かりやすいのがいい。父がプレッシャーにはなっていない」
丈「小学生か!!」
(リングとは違う父の顔)
【6R】
‐パンチ力は自信があるか。
寿「結構昔から自信はあった。拳が硬いと言われる」
‐切れのあるパンチと重いパンチとあるが。
丈「ドスーンパンチ系やな。握力もあるから硬いし、痛いと思う。昔で言うたら(パナマの元世界王者)ロベルト・デュラン。石の拳」
るみ夫人「言うねえ、自分の息子をデュランに例えて」
寿「(米国の元世界王者)レナードが良かったけどな」
丈「リーチが2センチくらい俺より長いんよ。肩幅あるし、その方が遠心力があるからカウンターは強い」
‐同じバンタム級。
寿「こだわりはない。注目されるのはイヤじゃない。僕が勝てば盛り上がる」
(手数で2人とも乗ってきた)【10日配信の後編へつづく】
◇ ◇
※1 体重が85キロもあった寿以輝は昨年1月、大阪帝拳に入門。吉井寛会長からプロデビュー条件として半年で20キロの減量を課された。同年6月末までに64・1キロに落とした。
※2 97年11月22日、無敗のWBC世界バンタム級王者・シリモンコン・ナコントンパークビュー(タイ)に挑戦。辰吉は7回TKO勝利で3度目の戴冠を果たした。1歳の寿以輝は辰吉に抱かれてリングに上がった。
※3 辰吉は99年に世界挑戦に失敗後、1度は引退表明したものの撤回。02年に復帰戦を飾り、03年9月にも判定勝ち。その後、故障もあり長いブランクに。大阪帝拳から引退を勧告され、08年には規定により「引退選手」扱いとなっているが、現役にこだわり、44歳の今も復帰を目指して練習を続けている。
◇ ◇
▽辰吉丈一郎(たつよし・じょういちろう)1970年5月15日、岡山県倉敷市出身。中学を卒業し、大阪帝拳に入門。89年にプロデビューし、91年にWBC世界バンタム級王座に初挑戦し、TKO勝ち。当時国内最速の8戦目で世界を奪取した。92年、王座から陥落し93年に同級暫定王座に。94年12月、薬師寺保栄との王座統一戦に敗れた。97年に王座に返り咲いた。プロ通算28戦20勝(14KO)7敗1分け。身長164センチ、右ボクサーファイター。
▽辰吉寿以輝(たつよし・じゅいき)1996年8月3日、大阪府守口市生まれ。幼少期から丈一郎にボクシングを教わり、寺方小2年でプロを志した。好きな選手は辰吉丈一郎とマニー・パッキャオ(フィリピン)。家族は父、母、兄。兄・寿希也(じゅきや)さんともに、99年に亡くなった祖父・粂二(くめじ)さんが命名した。身長167センチ、右ボクサーファイター。