長谷川穂積 壊れていた左拳で己の「強さ」試した 先月初めに親指を脱臼骨折

 「ボクシング・WBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチ」(16日、エディオンアリーナ大阪)

 長谷川穂積(35)=真正=が2年5カ月ぶりの世界戦を9回終了TKOで制し、5年5カ月ぶりの世界王者返り咲きを果たした。35歳9カ月の世界奪取は国内男子最年長記録。8月上旬、練習中に左手親指を脱臼骨折し、手術という逆境を乗り越え、国内4人目の3階級制覇を達成した。

 耳をつんざくような歓声の嵐の中心で、長谷川だけは冷静だった。3階級制覇、日本人最年長での世界王座奪取、5年5カ月ぶりの返り咲き。華々しい記録もこの男にとってはそれほど意味をなさないのかもしれない。

 デビュー時は、それほど将来を嘱望される存在ではなかった。最初のプロテストに落ち、新人王戦も2度の予選敗退。ジムの移籍もあった。順風満帆ではなかったボクサー人生で「強い相手と戦いたい」という欲だけは誰にも負けなかった。そうやって自分自身をたたき上げてきた。

 バンタム級でのV10で、V6以降はすべて序盤KOと敵なし。最強と呼ばれて、悩んだ。周囲が期待する日本記録の13度防衛より、階級を上げてさらに強い敵と戦うべきではないかと。王座陥落後に世界戦から離れた時期も、話題性はあるが実力の劣る相手との試合は「意味がない」と受けなかった。

 試合前の苦難は、貫いてきた矜持(きょうじ)を試されているようだった。先月初めの練習で左手親指の付け根を脱臼骨折。砕けた骨をつなげるプレートとくぎを埋め込む手術を、全身麻酔で行ったのが試合の約40日前だ。

 「気持ちを切らしたくない」と翌日にはグローブを着けて練習を再開したが、パンチを打てば傷は裂ける。深い傷口からくぎがのぞき、あふれ出た血でバンテージが赤く染まった。何度も裂けた傷をふさぐため、10針縫った。麻酔は効かなくなっていた。それでも痛みをこらえた。親指の付け根はボコッとずれて固まった。

 痛みが和らいだのは2週間前。直後に今度は左肩に肉離れを発症した。「何でこんな痛い思いをせなあかんのかな」。そう言いながらも自分はどこまで強くなれるのかと、闘っているようにも見えた。練習生の頃、初めてバンテージを巻いてもらったことがうれしくて、ロードワークに飛び出した。あれから17年。左拳の血にまみれたそれは、希代の王者の生きざまを象徴する。

 引退と隣り合わせだった近年は、尊敬する元なでしこジャパンの澤穂希さんの言葉が支えだった。「やりきってやめることは不可能。でも、満足してやめることはできる」。奇跡の続きは誰もが見たい。ただ、このままグローブをつるすこともあるだろう。どちらの道を選んでも、伝説の輝きは変わらない。

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