【香川の挑戦1】一つのことにこだわる
日本のエースとして、そしてマンチェスター・ユナイテッドの新星として世界を股にかけて活躍する香川真司(24)が初のW杯に挑む。無名だった中学・高校時代から、J2でのブレークを経て、いかにトッププレーヤーに駆け上がっていったのか。挑戦の軌跡を追った。
暗くなった練習場で、ひたすらシュートを繰り返していた。香川が中学・高校時代を過ごした仙台市のクラブチーム・FCみやぎバルセロナの練習は、夕方から夜にかけて行われる。午後9時に全体練習が終わった後、居残りでシュートを打つのが日課だった。
力強いシュートがポスト際に飛ぶ。「やられたあ」。GKをしていた同期の佐々木がうめくが、香川は「まだ。お前、本気でやってないやろ」と言い放つ。納得するまでシュート練習は延々と続いた。
現在は同クラブでコーチを務める佐々木俊輔さんは、「真司は寮に入っていたから良かったけど、僕は自宅だったので早く帰りたい時もあった。気持ち良く終わらせてやろうと決められたフリをしたんですけど…見抜かれましたね」と懐かしむ。シュートの強さやコースではなく、GKの動きを見て決められたと実感した時、ようやく居残り練習は終わったという。
一つのことにこだわる性格は、サッカーを離れても強かった。カラオケに行くと、当時好きだった男性デュオ・サスケの「青いベンチ」という曲を決まって入れた。
順番が来るたびに「青いベンチ」を入れ熱唱。また「青いベンチ」。その次も…。佐々木さんは苦笑しながら振り返る。「いい点が出るまで納得しないんですよ」。それも、負けて悔しかったわけではなく「歌はうまくて、僕らは太刀打ちできない」(佐々木さん)。遊びのカラオケでさえ、自分と闘っていたのだ。
C大阪入りも直前までチームメートには黙っていた。よく言えば芯が強い、悪く言えば?頑固。香川の軸になる部分は、このころからできあがっていた。