蛍 劇的勝ち越し弾 残り1分スーパーボレー 絶体絶命ハリルの首つなげた
「W杯アジア最終予選、日本2-1イラク」(6日、埼玉スタジアム2002)
サッカーの18年W杯ロシア大会アジア最終予選B組第3戦が行われ、FIFAランク56位の日本は同123位のイラクと対戦。1-1の後半50分、途中出場のMF山口蛍(26)=C大阪=が右足ミドルシュートを決めて、劇的勝利を飾った。この日の26歳の誕生日を自ら祝う一撃。引き分けに終われば進退問題に発展する可能性もあったバヒド・ハリルホジッチ監督(64)の窮地を救った。
寡黙な男がありったけの感情を解き放った。ドロー決着の空気がスタジアムを覆った後半50分、左サイドの深い位置から清武が蹴ったFKのこぼれ球を、ペナルティーエリア入り口付近で待ち受けた山口が右足を強振した。15年8月の東アジア杯(武漢)韓国戦の代表初ゴール以来となる代表通算2得点目。声にならない雄叫びを上げ、仲間が待ち受けるベンチへ飛び込んだ。
「最後やったんで思い切り振り抜こうと思った。ここまで劇的なゴールは正直ない」。決意を込めた一撃は、この日が26歳の誕生日の山口にとって記憶にないというバースデーゴールとなった。「意識していなかった」と話したが、引き分けに終わればハリルホジッチ監督の進退問題に発展する可能性もあった。窮地を救われた指揮官は「点を取ったらシャンパンをおごる冗談を言ったが、彼は2杯飲む権利がある」と上機嫌で祝福した。
15年末にドイツ1部ハノーバーへ完全移籍したものの、チームになじめずわずか半年でC大阪に復帰した。日本に戻ったことでハリルホジッチ監督からも厳しい指摘を受けた。それでも「国内組でもできるというところを見せないといけない」と秘めた思いをピッチにぶつけた。
C大阪の大熊監督は「海外で学んだこともあるのだろう。明るくなったし、若い選手を取り込み、チームを良くしようという覚悟や姿勢、発言が多くなっている」と山口の変化を如実に感じ取る。
本田、岡崎らがチームをけん引してきた北京五輪世代が精彩を欠く中、山口らロンドン五輪世代が結果を残したことについて、「やっていかないといけないという自覚を持たないといけないところに入っている」と自負も見せた。
忘れられない記念日となったが「ゴールに浮かれる必要はない。次に切り替えたい」。控えめに話したが、今は喜びに浸ってもいい。「暗闇でも明るい光を放つように」と名付けられた男が、かすみつつあったW杯への道筋を明るく照らした。