隼太、24歳バースデー弾もホロ苦拙守
「巨人2‐3阪神」(8日、東京ド)
天国から地獄‐。阪神の2年目・伊藤隼に課せられたプロの試練。チームの勝利にも、安どの表情はなかった。この日は24歳の誕生日。まずは自ら祝うかのような劇弾で、試合の主役へと躍り出た。
両チーム無得点の八回だ。2死一塁から、好投を続ける沢村が投じた高めに浮いたスライダー、その失投を見逃さない。フルスイングでとらえた打球は歓声と悲鳴が入り交じる中、右翼席へと消えた。伊藤隼のバースデーアーチ。今季1号は先制2ランだ。
「何とかつなごうと思っていた。まさか本塁打になるとは。(バースデー弾は)初めてです」
前夜の空中戦から一転、息詰まる展開。今季の対戦成績2戦2勝と、虎が“お得意様”としていた沢村の意地の投球に、七回までわずか2安打と封じられていた。
重苦しい空気が支配し始めた東京ドーム。さらにこの日、主軸を担う福留が左膝痛で登録抹消。その代役である伊藤隼が放った一撃だからこそ、大きな輝きを放った。それが九回に暗転する。
1点差に迫られ迎えた九回。無死一塁から長野のファウルフライを捕り損ね、2死三塁からは坂本の右翼への打球に追いついたかに見えたが、フェンスにぶつかりバランスを崩すと、かざしたグラブの先を打球はすり抜ける。同点の適時三塁打となり、延長十回の守備からベンチへ退いた。
試合後も「僕が下手なだけ。周りに迷惑をかけて申し訳ない」と厳しい表情。山脇外野守備走塁コーチも「フェンスとの距離感だな。野球の怖さを知っただろう。天国から地獄。本人が一番悔しいと思う」と話した。
自身の拙守で本塁打はかすんだ。だが取り返すチャンスは、いくらでもある。和田監督も伊藤隼の打撃に「ああいう打撃ができる能力はある。もっとできる選手」と期待を懸けた。「必死にやります。チームがこういう状況なので、少しでも力になりたい」。24歳の誕生日はほろ苦く、しかし大きな教訓を得た1日となった。