原口プロ初安打「この日を忘れない」
「阪神1-11巨人」(27日、甲子園球場)
甲子園の大観衆を目で、耳で、体全体で感じる。阪神・原口は、この場所に立つためにプロ生活6年間、バットを握りしめ、何千本、何万本と振り込んできた。「まず、出させていただいたことに感謝したいです」。八回、魂を込めてフルスイングすると、打球は左前で跳ねる。記念すべきプロ初安打に「この日を絶対忘れない」と感慨に浸った。
昨夜、球団関係者から一本の連絡が入る。支配下選手登録、そして1軍昇格-。興奮冷めやらぬまま朝を迎えた。すると、掛布2軍監督を中心に鳴尾浜で共に汗を流してきた選手、スタッフが虎風荘内で待ち構えていた。「おめでとう!頑張ってこいよ」-。心が躍る。新しい背番号「94」の輝流ラインユニホームは生産が間に合わず、山田2軍バッテリーコーチの背番号「82」を背負い、聖地に足を踏み入れた。
五回2死の場面で清水の代打で出場し、中飛。六回からは、扇の要に就いた。味方の失策も重なったが、この回だけで4失点。八回には、坂本にこの日2本目の一発を許した。「悔しいです」。笑顔はなく、表情は硬かった。「成長したいです」と自らに言い聞かせるように、次戦へと思いを巡らせた。
朝8時。誰もいない鳴尾浜で「カキーン、カキーン」と打球音が聞こえる。30分後、猛烈に汗をかいた原口が出てきた。「毎日続けないとね」。一度決めたことは絶対に最後までやり通す。打撃を考えるがあまり、寝られない夜を過ごすこともしばしば。スマートフォンの画像フォルダには友達との写真や、おいしそうな料理などの写真はほとんどない。自身の打撃フォームの連続写真や、動画で埋め尽くされている。
「6年間、下(2軍)でやってきた。このチャンスを生かしたいし、全力でやっていきたい。チームが勝てるように、頑張ります」
巨人・阿部に憧れて野球を始めた。何度もケガに苦しめられたが、大観衆に包まれた甲子園でプレーするために努力し続けてきた。喜びと同時に、プロの厳しさを痛感した雨上がりの夜。多くの人の支えを力に、また新たなスタートを切った。