大卒3年目・岩貞に感じる覚醒の予感
大卒3年目の岩貞が覚醒の予感だ。6日のヤクルト戦(甲子園)に先発し、7回4安打無失点。9三振を奪う好投で、今季3勝目を挙げた。防御率0・65と55奪三振は、堂々のセ・リーグトップだ。
過去2年間の成績は2勝5敗。課題は通算50イニング28四死球の制球難にあった。昨年まではフォームが安定せず、ボールが先行。ストライクを取りにいくと痛打を食らった。
今年はまるで別人だ。ここまで41回1/3を投げ、わずか8四球で死球は0。制球力向上こそ、飛躍の最大の要因だ。昨年までファームで指導にあたり、今季から1軍担当となった香田投手コーチは、「腕を振れること」を最大の長所と強調し、2つのポイントを挙げる。
「彼の一番の課題はコントロールだった。もともと、腕を振るというのは彼の一番いいところだから。腕を振って、どれだけストライクを取れるかというのが課題。プレートのどの位置で投げたら、ストライクゾーンにいくかを考えました」
思いがけない変身だった。昨春のウエスタン・ソフトバンク戦。雨天ゲームの中、投球フォームを崩した岩貞は久保2軍投手コーチの助言を受け、プレートを踏む位置をそれまでの一塁側から三塁側へ変更した。すると、マウンドからの景色が一変。これが左腕に、はまったという。
「抜け球がストライクになって、縦の変化を使いやすくなりました。(左腕を後方へ)引っ張ってこなくてもいいので。久保さんも応急処置で言われたと思うんですけどね」
プロ2年目も1勝に終わったが、手応えを感じ始めていた。昨秋キャンプ。今度は腕の振りを縦に修正した。それまでのスリークオーターから、オーバースローのイメージだ。香田コーチは言う。
「前までグルグル横に回っていたのを体の使い方を縦にすることで、上下のブレはあっても、横にぶれることはなくなった。体の使い方、力の伝える方向はなるべくシンプルにした方がいい。腕を振ることによって、チェンジアップもカットボールも生きる。(ストライク)ゾーンにこなきゃ話にならないから。どうやったらゾーンに来るかだね」
セットポジションに入る直前、岩貞は必ず左腕をぐるりと一度、回す。新たなルーティンだ。聞けば、昨年11月に参加した台湾でのアジア・ウインターリーグからだという。
「台湾のときに始めたストレッチです。上から投げようと意識してから、やるようになりました」
この2つの変化によって、制球力は劇的に向上した。打者を追い込むと、ストライクは必要ない。キレのある直球を軸に、チェンジアップ、スライダーを内外角に投げ分ける。矢野作戦兼バッテリーコーチも「腕を振れること」を強調し、2つの決め球を奪三振量産の理由に挙げる。
「スライダーとチェンジアップ。2つあるのはメチャメチャ大きいよ。左打者に対してはチェンジアップの割合が減るけど、右打者はチェンジアップとスライダー両方をマークしないといけない。その幅が大きいから」
香田コーチの指導のもと、目の前の課題を着実にクリアし、ローテの座にたどり着いた。岩貞は「続けていくことが大事だと思う」と先を見据える。虎投に現れた新星はまだ進化の途中にいる。(デイリースポーツ・杉原史恭)