原口が進化したきっかけとは

 今シーズン、阪神・金本新監督が「超変革」をスローガンに掲げ、積極的な若手起用や、思い切った采配で見るものを熱くさせている。4月27日に支配下再登録を勝ち取り、ここまで打率・387と正捕手への道をひた走る原口文仁捕手(24)。シンデレラストーリーを突き進む男が、進化したきっかけとは何か-。

 まるで夢心地だった。4日・中日戦(ナゴヤドーム)。吉見のフォークをフルスイングした打球はライナーで左翼席に突き刺さった。苦節6年、積み重ねてきた努力が結果として表れる。そんな背番号94に対し、育成選手時代から何度も対戦してきた中日・桂は、警戒心を強めていた。

 「完全に僕の配球ミスでした。真っすぐに強いのは分かっていたのですが…。ファームにいた時より、スイングが鋭くなっていたような気がします」

 同学年の両者は、ウエスタン・リーグでしのぎを削ってきたライバル。「とにかく思い切りのいいバッター」。桂は、強打者と位置づけて慎重にリードしていた。しかし、背番号が2桁になった青年は想像以上の成長曲線を描く。竜の正捕手候補はマスク越しに“すごみ”を感じていた。

 原口が飛躍したきっかけは、2つのポイントにある。14年のみやざきフェニックス・リーグの試合中に負傷した右肩痛の完全治癒。そして、掛布2軍監督からの「金言」だ。

 宮崎で奮闘していた矢先だった。一塁走者として帰塁した際に激痛が走る。帰阪を命じられ、涙をのんだ。翌年の2軍キャンプでも状態は上がらず、シーズンに入り実戦復帰しても違和感は残った。2軍戦で打率・220と自慢の打撃がふるわず、苦しい時間を過ごしていた。

 15年のオフ、この年限りで引退した関本からアドバイスをもらう。「肩は毎日動かさないと、固まってしまうから」。先輩は、01年に右肩関節唇損傷の形成手術を経験。実体験を踏まえた助言を生かし、真冬でも毎日キャッチボールを行った。風呂で肩をほぐし、入念なケアも怠らなかった。現在は全力投球でき、打撃面での不安も全くない。掛布2軍監督は、その点を強調する。

 「肩のケガが治ったことが一番大きいんじゃない?不安もなくなってスイングできるし、右手でしっかり押し込めているからね」。

 昨季ゴールデングラブ賞に輝いたヤクルト・中村は「パンチ力がありますし、ボール球を振らないですよね。選球眼もあるし、一発もあるし、厄介な感じです。何百試合もこなしているみたいに落ち着いていますよね」と敵ながら絶賛。巨人の正捕手候補・小林誠も「いい打者で、いい捕手。5番を打っていますし、信頼度も高いと思います」と話す。

 思えば、4月27日・巨人戦(甲子園)での初安打からシンデレラストーリーは始まった。爆発のきっかけは、4月19日のウエスタン・広島戦(由宇)。試合前に“聞こえてきた”掛布2軍監督の一言だという。「『これだ!』と思ったんです」と笑顔で振り返る。

 掛布2軍監督が指導していたのは原口ではなく新井良。『ステップと同時に弓矢のように肘を張り、そこから一気にインパクトまで振り出せ』。ちょうど横にいたことで、「金言」が耳に入った。

 「直接言われても気づけなかったかもしれません。冷静に自分と照らし合わせることができたというか…。客観的に他の人が教えられているところを見て、初めて気づくこともあるんですね」

 トップを作る際、絶妙に「左肘が張る」部分を見つけた。変化球が来ても決して崩れない。力まず、全身のパワーをインパクトに集約できる。広島・石原が「いいスイングをしていると思うよ。コンパクトで力強いしね」と認める「新フォーム」が完成した。

 一方、経験を要する捕手の仕事には多くの課題が残る。原口がスタメン出場した試合は、これまで8勝9敗1分け。投手との連係をより深め、配球面もより深く学ぶことが必要となる。それでも、巨人・小林誠は「どっしりしていて、いいキャッチャー」と宿敵の捕手を分析。一心不乱にボールを受ける姿は他球団の捕手陣をうならせ、またマウンドの投手陣の心にも響いている。

 ここまで21試合に出場し、得点圏打率・478が象徴するように、若武者の存在感は日ごとに増している。DeNA・戸柱も「球に合わせようというのではなく、全ての球に同じように力強いスイングができる打者。『怖い打者だな』というイメージです」と警戒感を強める。勝敗の責任を負う扇の要という役目の比重は重い。だが、武器である打撃を失ってはいけない。

 原口はしみじみと話す。「野球をやれていることが幸せなので」-。プロ7年目、一世一代の大勝負は続く。

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