休まなかった男が、「休め」という理由

 モントリオールから乗った航空機がニューヨークJFK空港へ着く直前、いわゆるエアポケットに遭遇した。あれはメッツ・新庄剛志の取材だったから15年も前の話だが、おそらく数百メートルは落下したような感覚で、機内に悲鳴と絶叫が響いた。もちろん無事だったから今こうして原稿を書いているわけだが、あれ以来、空の旅に免疫ができ、少々の揺れでは動じなくなった。

 「キツかった…。かなり酔いました」。伊丹空港の手洗いで一緒になった狩野恵輔が顔色をなくしていた。チームが仙台から空路移動した前日(3日)朝のこと。監督、コーチ、選手を乗せた航空機が機材トラブル(詳細は不明)で大阪上空を旋回し、伊丹空港への着陸が約30分遅れた。機体が強風にあおられ、到着後、体調を整えるまで機内から動けない選手もいたほどだ。

 長丁場のシーズン、想定外のアクシデントもある。新人監督の金本知憲はおそらく、采配や起用法以上に選手の体調面に神経を費やしている。この日は練習時間を減らし、リフレッシュをはかって14時開始のデーゲームに臨んだ。空路のトラブルは余計だったにせよ移動後即ナイターを戦った前夜のケアだという。そもそも今季は移動日の野手練習が前年までと比べて少ないが、これも頭と体の休養を優先させる金本の考えによるものだ。

 コンディションと言えば、心身負担の多い監督業こそ留意が要る…なんてことを考えていると、見覚えのある白髪のダンディーとバックネット裏で遭遇した。「デイリーで書いといてや。きょうは吉川が来たから勝ったいうてな」。このオジさん、いや失礼、吉川敏一は京都府立医大の学長であり、金本の体を現役時代から診る主治医。僕も吉川が教授時代から何度も取材でお世話になっている。

 「彼は50歳まで一線でやれる」。アンチエイジングの権威として医学界で名をはせる吉川が金本が40歳を迎えた際、真顔でそう語っていた。根拠は「血管年齢の若さ」。そう言うので、当時データを見せてもらうと血管は20代前半。足りない栄養分をマメにサプリメントで補うなど、球界きっての酒豪でありながら健康面での繊細さを備えたことで、不休の肉体を支えていた。

 フルイニング出場の世界記録を持ち、よく休日を返上していた監督の下では選手も休みづらい…そんなふうに想像していたら、金本は「休むときは休んだほうがいい」と言う。そういえば、吉川が話していた。成長ホルモンの促進を語るとき「とにかく寝ることですわ」と。金本は主治医のアドバイスを、しっかりチームに還元しているのかもしれない。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)

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