首位広島と阪神のゲーム差は「13」 木村拓也の言葉を胸に…
「巨人3-2阪神」(5日、東京ドーム)
阪神が2連敗で、借金が今季ワーストの9となった。
あの表情が忘れられない。半笑い。いや、無理に笑顔をつくっていたのだと思う。話し掛けないでよ。そんなオーラがはっきり出ていたような気もする。
08年の10月8日だから、8年前の伝統の一戦。あの夜、木村拓也は言った。「聞きたいことは分かるけど…。あまり言わせないでよ」。僕とは広島担当時代から旧知の仲。それでも、彼は試合前の取材に口をつぐんだ。雌雄を決する伝統の一戦で阪神は屈し、原巨人に優勝マジック2が点灯。岡田阪神はそのまま世紀の大逆転Vを許してしまう。いわゆる「メークレジェンド」のシーズンだ。
96年に長嶋巨人に大逆転優勝「メークドラマ」を許した元赤ヘル戦士、木村はそれから12年のときを経て、今度は巨人の正二塁手として勝者になった。Gが成した2つのミラクル…。彼こそ歴史的な「泣き」「笑い」をWで経験した唯一の選手。その渦中で何とか胸中を聞きたかったのだが、普段穏やかな表情はひきつっていた。
その年の7月。岡田阪神は突っ走っていた。同6日の横浜戦(横浜)で12球団最速のシーズン50勝に到達(23敗1分け、貯金27)すると、8日の伝統の一戦(甲子園)で早々と原巨人の自力優勝を消滅させた。このとき、1位阪神、3位巨人の差は「13」ゲーム。そして、22日の巨人戦(甲子園)で虎の優勝マジック46が点灯し、秋の大波乱なんて僕は予想できなかった。
「カープのときは俺、レギュラーじゃなかったからね…。カネさんにあのときの気持ち、聞いたことある?」。メークレジェンドの翌09年、木村は敗者になった広島時代を懐かしんでいた。好調赤ヘル打線が「ビッグレッドマシン」と呼ばれた96年、彼はわずか30試合の出場。主に6番を任された金本知憲は当時を振り返り、「そんなネーミング、誰も覚えてないだろ」と言うが、当事者こそ思い出したくない記憶だろう。メークドラマの同年は広島の主力として、レジェンドの08年は阪神の主砲として、巨人に2度屈辱を味わった唯一の選手。それが金本なのだから。
この夜、首位広島と阪神のゲーム差は「13」まで広がった。10年4月に急逝した木村と最後に話したのは09年のオフ。生前、彼は話していた。「阪神と13ゲーム離されたけど、ジャイアンツの選手は誰もあきらめてなかったよ。絶対勝つんだって、チームが一つになっていたから」。08年、天王山を前にひきつっていた彼の顔が忘れられない。喉がカラッカラになるほどしびれるミラクルの機運は、木村が言った「一丸」が鍵になると思う。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)
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