阪神・金本監督、生徒役になった横浜の宴
「マツダオールスターゲーム・第2戦、全セ5-5全パ」(16日、横浜スタジアム)
タフィー・ローズが金本知憲のバットを手に取り、こう耳打ちした。「カネモトさん、甲子園をホームスタジアムにして40本も打ったのかい?あなた、ナンバーワンね。ボクはあそこではノーチャンスだよ」。京セラドームで開催された08年のオールスターゲーム第1戦。ホームランダービーで直接対決した2人は、こんな会話を交わしたという。
この夜、横浜でセ・リーグコーチの金本に現役時代にオールスターで得たことを聞くと、「特にないけどな…」。性格的なものかもしれないが、確かに他球団の選手にガツガツと話し掛けていた印象はない。「聞かれたことはあるけれど…」。
01年に王貞治と並ぶ当時のシーズン最多本塁打(55本)を記録したローズは、巨人時代の2年間で計72本塁打したが、甲子園では4本。左打者にアゲンストの浜風を避けるように左翼方向を狙っていたという。歴代外国人の最多アーチストから「イチバン」と称されたのは思い出深い。ただ、お祭りの舞台では控えめに、もっぱら先生役だったようだ。
札幌ドームで開催された09年のオールスターでは青木宣親から声が掛かった。当時既に2度の首位打者を獲得していた天才からレクチャーを頼まれたのは、「バットの出し方」。のちに青木に聞いた。「なぜあんなにいいスイングできるんだろうって金本さんのマネをしていたことがあったんです。ああいう打者になりたいと思っていたので。なかなかマネするのは難しいけど、すごく参考にしていたし、あそこまで大きい感じにはなれなかったけど、間違いなくいいスイングですから」
金本は懐かしそうに、「青木のほかにも稲葉、清水(隆行)…あと何人かバッティングのこと、聞かれたことがあるよ」と振り返る。オールスターの横浜開催は、第1戦で当時オリックスのローズとアーチ談義した08年以来、8年ぶりになる。球宴で計5本塁打し、MVP2度のお祭り男も、コーチとして初出場の今回は「居場所がないなあ」と苦笑い。それでも、試合前は山田哲人や中田翔、ビシエドらセ・パのホームラン打者に声を掛け、話し込んでいた。
山田には「どういうイメージで打ってるの?」。チームに還元したい。教え子の役に立ちたい。そんな思いからだろうか。通算476本塁打の鉄人が、現役時代とはキャラを変え、この日24歳の誕生日を迎えた現世代最高のアーチストに問い掛けた。ここ横浜で初出場した球宴から21年。金本ははじめて、生徒役になった。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)