広島・新井のMVPを後押しする「98打点」の中身
「阪神4-6広島」(14日、甲子園球場)
2年連続トリプル3の山田哲人よりも、40本塁打の筒香嘉智よりも、首位打者の坂本勇人よりもたくさん、チームに得点をもたらしている打者…それが広島・新井貴浩だ。現在98打点。カープ25年ぶり優勝への貢献度はもう、素晴らしいのひと言だ。
過去3度、100打点超えを記録してきた新井にとって「98」は特に驚くべき数ではないのだが、彼の総打点の中身を、金本知憲が初めてたたえた。
カープで同僚だった時代から、金本が新井に口酸っぱく諭していたことがある。
「意味のある打点にこだわれよ」
分かりやすく例えるならば、10-0の局面で点差を14点に広げる満塁弾を放つよりも、0-0で迎えた終盤に決勝打を打てる打者になれ、というわけだ。
「得点圏打率の高さだけで、打者の優劣をはかるのはおかしい」 これは金本の口癖。つまり、得点圏(二塁、三塁)に走者を置いて打席に入る場面は僅差、大差ともにあるわけで、均衡したゲームでこそ走者をかえせる、そんな印象深い打者になれと、いつも弟分に説いていたのだ。
阪神時代の新井の印象を阪神ファンはどう見ていたのか。象徴的とも言えるシーズンは移籍4年目の11年だろうか。93打点で打点王のタイトルを獲得しながら、同年はリーグ最多の20併殺を記録。その前年の10年も112打点を挙げたものの、併殺打が19を数えた。フルスイングは併殺と隣り合わせとも言われるが、阪神時代の新井には、どうしても「もろさ」のレッテルが先行していた。
カープが優勝を決めた11日付の当欄で、金本が新井をたたえたコメントを掲載した。
「確かに、今シーズンの新井はいい場面で打っていたよ」
では、金本が認めた「98打点」の中身は実際にどんなものだったのか。わが社記録部に確認してみると金本が抱く印象は正しかった。先制打、同点打、勝ち越し打、逆転打、サヨナラ打、いわゆる殊勲打の数は、新井がカープ最多の27本。坂本と首位打者を争う鈴木誠也の21本に6差もつけているのだ。セ・リーグのMVPは誰か。最近、報道陣の間でそんな話題も挙がるが、この数字を見る限り文句なしで受賞するように思う。
七回、去就の決まらないマウロ・ゴメスが一時は勝ち越しとなる適時打で残留をアピールした。新井が阪神から事実上の構想外を告げられたのは、ポジションのかぶるゴメスの存在があったから。関西で「勝負弱い」と揶揄(やゆ)された男がこの夜、リーグ最高の打者となって、甲子園にがい旋した。=敬称略=
(阪神担当キャップ・吉田 風)