秋山1539日ぶり星 長かったプロ通算6勝目「本当に気持ち良かった」
「阪神2-1DeNA」(16日、甲子園球場)
阪神の秋山拓巳投手(25)が5回2/3を3安打1失点と好投し、2012年6月30日・ヤクルト戦以来、1539日ぶりの勝ち星を挙げた。初回に1点を失ったが立ち直り、打っても2安打。甲子園でのチームの連敗を5で止めた。高卒1年目に4勝を挙げ、将来を期待されながら裏切り続けてきた右腕のプロ6勝目に聖地が沸いた。
お立ち台の景色を忘れるのも無理はなかった。涙はない。申し訳なさが上回り、笑顔も浮かんだ。「久しぶりすぎて恥ずかしいですけど、勝てて良かったです」。1539日ぶりの勝利は、甲子園に限れば2188日ぶりのもの。遠ざかっていた白星が、秋山の頭上に輝いた。
「久しぶりというのもあって、本当に気持ち良かったです。長かったですけど勝てて良かったです」
1点で耐えた粘りが勝因だ。初回だった。1点を失い、なおも1死二塁のピンチで、筒香と宮崎を凡打に仕留めて追加点を与えなかった。「何とか1点でいけたので」。四回は先頭から北條の失策で出塁を許したが、続く筒香を内角直球で見逃し三振に抑えるなど、無失点で切り抜けた。
六回2死二塁で降板となったが、リリーフ陣がリードを守ってくれた。信じて見つめた先の勝利。1人で投げきるのもいいが、つないで勝ちきる一丸の勝利にも喜びを感じる。それを忘れたくないから、今も記念の一球を自宅に置いている。
昨年から、5年過ごした虎風荘を退寮して一人暮らしを始めた。気持ちを新たに荷作りをした際、実家に送らずに新居に持ち込んだウイニングボールが1つ。10年9月6日の広島戦(マツダ)で、プロ2勝目を挙げた時のものだった。
その勝利直後、しばらくそのボールは甲子園歴史館に飾られていた。理由は「球児さん(藤川)の150セーブの時のものだったから」だ。展示後に手元に戻ってきたが、記録のことを考えて、藤川に渡しに行った。あっさりと返された。ねぎらいの言葉と共に。
「おまえがしっかり投げてくれたからセーブが挙げられただけ。だから持っとけよ」
気遣いがうれしくもあり、責任の重さも身に染みた。先発がゲームを作ることがすべてにつながる。あの時、藤川から託された思いは今も忘れていない。「信頼されるピッチャーにならんとダメですね」。白星から離れても描く理想は変わらなかった。ようやくこの日を迎えられた。
4年ぶりの勝利を、金本監督は「彼の力からすれば不思議な感じ」と期待を込める。「まだまだこの一回だけなんで」と秋山。節目であってもゴールじゃない。まだこれから。沈みがちな甲子園に響いた六甲おろしが、再出発の合図だ。