手本になる広島・倉の生きざま 「一番、下手」という謙虚さが根底に

 カープ倉義和の携帯電話を鳴らした。

 「おかげさまでこんなに長い間、現役を続けることができました。感謝しています」

 赤ヘル25年ぶり優勝の陰で、低迷期を支えた苦労人がユニホームを脱ぐことになった。僕が転勤で広島に赴任した1997年のドラフト5位入団。その前年に黒田博樹、その翌年に新井貴浩や東出輝裕が加わった。倉は彼らスターのように脚光を浴びることはなかったが、19年もの長き間、現役を続けてきた。

 関西出身の倉に親近感を持ち、ルーキー時代からよく話をした。思い出深いのは1年目の沖縄キャンプ。彼がこんなふうに言っていたことを思い出す。

 「この世界では僕より下手くそな人間なんていない。そう思ってやっていますから」

 達川光男の背番号40を引き継ぎ、次代の正捕手と期待されたが、ライバルを凌駕(りょうが)する特別な強みがあるわけではなかった。京都成章高時代、のちにレッドソックスなどメジャーで活躍した大家友和とバッテリーを組んでいた倉は、カープで黒田博樹の専属捕手も務めた。地味であれエースに信頼され、長く一線を張れたのは「一番、下手」という謙虚さが根底にあったからに違いない。

 「藤崎台でのタイムリー、よく覚えてるよ」。電話でそう伝えると、倉は「1年目!懐かしいですね~」。熊本地震で多大な被害を受けた藤崎台県営野球場で彼はプロ初打席を迎えた。98年5月のこと。守備から途中出場し、同点の延長十二回に初対戦した相手はベイスターズ斎藤隆。結果は走者を置いて最悪の投ゴロ併殺。プロの洗礼を受けた。が、野球の神様は懸命な「下手くそ」にご褒美をくれた。その試合の十四回、西清孝から放ったプロ初安打が決勝打となり、翌日の広島各紙に倉の名前が躍った。

 新井は昔から口癖のように言った。「僕は下手くそだから」。ドラ1の東出だって「自分はずっとチビだったし、身体能力も皆より劣っていた」と、コンプレックスを力に変えて一流になった。今季1軍打撃コーチとしてリーグ制覇に貢献した東出は言う。「アドバンテージのない人間ほど考える。どうすれば生き残れるか。どうすればレギュラーになれるのか、とね」

 倉は「捕手らしい捕手」と言われた。飛び抜けた技術がないから考えた。答えは投手からの「信頼」。そして、それを勝ち取るためには技術が要る。だから、泥くさく練習した。

 倉は金本知憲と同じ広島のジム「アスリート」に通い詰めた。毎日通うためにジムの隣のマンションに家族と暮らした。金本が阪神の若手に求めるのは「執念」。倉の生きざまもいいお手本になる。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)

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