【超変革を検証】7・8広島戦、藤浪161球の価値とは…
金本知憲新監督のもとスタートした阪神の「超変革」元年は、4年ぶりのBクラスとなる4位に終わった。しかし積極的な若手起用で、確かな成果も見えたシーズンだった。デイリースポーツ阪神担当記者が今季を検証する。
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信じがたい光景だった。7月8日・広島戦。2-5の七回、藤浪晋太郎投手は2死から打席に立つと、八回もマウンドへ上がった。球数はすでに130球を超えていた。さすがに疲労を隠しきれずさらに3失点。結局、8回7安打8失点で、プロ入り最多の161球を投じて降板した。
試合後、金本監督は「今日は何点取られても、最後まで投げさせるつもりだった。責任を持って。何球投げようが、10点取られようが投げさせるつもりだった」と心を鬼にしたことを明かしている。
怒りの矛先は初回の失点だった。立ち上がりは先発投手にとって最も難しいと言われるが、藤浪はこの時点で15試合中8度、初回に失点していた。悪癖が繰り返され、しらけたムードが漂っていたという。チーム内で、この続投に批判的な意見はほとんどなかった。「最後まで投げさせれば良かった」、「若いから大丈夫」と采配を支持する声が、大半を占めていた。
個人的には他の再生方法はなかったのか、疑問が残った。藤浪は昨季後半に右肩痛を発症しており、故障リスクも気がかりだ。1月の自主トレ中から、その影響は感じさせた。今年の初投げでは、明らかに肩をかばってキャッチボールしていた。キャンプでも連投を避けるなどスロー調整。シーズン序盤は球速も150キロ台前半どまり。9月に入って自己最速160キロをマークしたが、例年以上にエンジンのかかりが遅かった印象だ。高校時代からエースとして投げ続け、プロ入り後も1年目から先発ローテ入りし、昨季は199イニングに登板。蓄積疲労も心配される。
ただ、金本監督はこうした賛否が渦巻くことも承知の上で続投させたはず。161球の直後、藤浪は「監督の気持ちは分かります。自分でも情けないと感じています。何とかしたいと思いつつ…、分かってるんですけどね…」と苦悩を明かした。精神的ダメージは受けながらも、指揮官の真意は本人にも伝わっているようだった。
劇薬の効果は成績に直結していないようにも見える。161球を投げた試合の後、藤浪の成績は3勝6敗。だが、初回に失点するケースは11試合で3度と減少した。ある先輩投手は「本人がどう感じるか。周りがどうこう言うことではない。自分で考えてやらないといけない」と話す。
今季は26試合の登板で、7勝11敗、防御率3・25。高卒1年目からの4年連続2桁勝利は逃した。逆風にさらされ、試練を味わったシーズンだった。
それでも自身最終登板の9月30日・巨人戦(甲子園)では6回0封。1失点完投勝利を挙げた同22日・広島戦に続く好投で締めた。降板後、金本監督から「いい感覚で投げられたか?」と問われた藤浪は「前回(22日)と同じ感覚で行けて良かったです」と答えている。その手応えが来季の飛躍へとつながれば、161球にも大きな価値が出てくる。