サプライズの是非-阪神のドラフトを総括
阪神がサプライズ指名に踏み切る。そんな衝撃情報が流れたのは20日、ドラフト会議直前の16時半過ぎだった。土壇場で大転換し、1位指名を桜美林大の佐々木千隼から撤退するという。会場のプレスルームで金本知憲の言葉を思い返してみた。明大の柳裕也も評価していたが、サプライズとは言えない。「即戦力投手」は動かせないはず。誰だ…。
阪神、大山悠輔。
その瞬間、報道陣は「えぇ~っ」。ファン1000人を埋めた会場からは、どよめきにわずかなブーイングが交じった。「投手大豊作」と言われた今ドラフト。阪神は早くから即戦力の先発右腕を最優先の補強ポイントに挙げ、金本知憲の気持ちも8月過ぎには固まっていた。田中正義に魅力を感じていた坂井信也オーナーも監督の意向を尊重し、四藤慶一郎球団社長とも「1位=佐々木」の方針を共有。他球団にもその情報は拡散していた。
デイリースポーツは20日の紙面で「佐々木1位を最終確認」と書き、1面で佐々木の前日表情を掲載した。金本は絶対にぶれないと思っていたが、急転。電撃指名が起こった。なぜか。四藤社長はドラフト会議の後、「他球団の動向を見ながら単独指名狙いで変更しました。監督からそういう(1位=大山)意見があり、あうんの呼吸で落ち着いたということ」と、舞台裏を明かした。
金本はドラフト当日の最終スカウト会議で「自分が言い出しっぺになって」大山の名前を挙げたという。監督の意見に四藤ら幹部、スカウト陣も同調。「満場一致」でサプライズを決定し、坂井オーナーも電話で納得し、「賛成」を伝えた。
この電撃戦略が、競合でクジを外すことを嫌った「逃げ」…つまりネガティブの先にあった結論であれば「?」だし、是が非でもと大山を獲(と)りにいったポジティブな選択であればヨシだと、個人的には思う。
僕の知る他球団の首脳、スカウト、選手と話せば「阪神はどうしたの?」の声が大半を占める。「阪神のチーム事情を冷静に見て、野手と投手、てんびんにかけると今回は投手。間違いなく佐々木で勝負すると思っていた。来年勝たないといけないチームでしょ。よっぽど自信のある(先発投手の)助っ人を獲れるのかな」とは他球団首脳の話。この人も大山の素質を否定するわけではなく、佐々木を回避したことに「結果論ではなく、あの素材を獲得できるチャンスから手を引いたのはもったいない」と言うのだ。
金本はドラフトから一夜明けた21日、帰阪する羽田空港で「来年は(ドラ1位候補の)野手が少ないから。外国人で言うと野手で成功する選手は本当に少ない。投手は成功する例が多いから(外国人で)まかなえる」と、大山指名の根拠を理路整然と説明した。
投手では佐々木と田中どちらだったのか?そう問われると「佐々木だよ。1位でどこもいかないとはね…」。あの日、大山に変えて正解だった-数年後、このサプライズが称賛されるかどうか。金本の育成手腕にかかる。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)