【対談・金本監督×長谷川穂積(2)】「金本さんから『やれ!』と言われたらすぐやります」
9月に5年半ぶりに世界王座に返り咲き、3階級制覇を果たしたボクシングWBC世界スーパーバンタム級王者、長谷川穂積(35)=真正=が、親交のある阪神・金本知憲監督(48)を激励した。2年目の巻き返しを目指す虎将と不死鳥チャンプの豪華対談が実現。長谷川はアニキの胴上げが見たいとエールを送り、金本監督は今季の苦悩やリーグ優勝への思いを語った。
◇ ◇
金本「(長谷川が王者に返り咲いた)9月の試合は、タイガースも試合があってテレビで見れなかったんだよね。試合後に記者から穂積が勝ったと聞いて、えぇ~っ、うそ~って(笑)。正直、厳しいかなと思ってたから」
長谷川「みんな、そう思っていましたからね」
金本「(チャンピオンに返り咲いた試合は)左の拳を痛めていたんだよな」
長谷川「はい。以前、金本さんから『骨が折れていても自分が痛くないと思えば大丈夫』という話を聞きました。(左手親指を)脱臼骨折してしまって…試合の45日前でした」
金本「まず、練習ができないだろ?」
長谷川「左は、ほとんど打ってないです。(手を見せて)指もこんなふうに形が変わってしまいました。リタイアするか、そのままやるか、二択しかなかったんですよ」
金本「よく45日で骨がくっついたな」
長谷川「超音波を当てて、くっつくのはくっついたんです。痛みは1週間前までありました。でも、アドレナリンが出たら大丈夫で…。金本さんに言われた通りでした」
金本「試合が終わったら、また痛くなるよな。(痛み止めの)注射とか打ったの?」
長谷川「試合の時は打ちました。練習はいつも座薬を入れてやっていました」
金本「ボクシング界の常識は分からないけど、5年半も空いて、ようやったな」
長谷川「僕は全く(負けは)頭になかったんです。2年前のタイトル戦で負けて、もう終わりみたいになっていたんですけど…」
金本「世間の人はそう思うよな。引退の花道を飾りたかったのかなって思ってた。だから、びっくりしたよ。でも、どこかで自信があったんじゃない?」
長谷川「僕は、勝つ気でやれば絶対に誰にも負けないと思っていました。勘違いかもしれないですけど…。ネットでは『辞めろ、辞めろ』でしたけどね(苦笑)」
金本「自信がないとやんないしな。ネット見るの?俺は全く見ないから」
長谷川「実は僕、この試合に勝って辞めようと思っていたんです。自分のダメージ的なものも考えて。でもいざ勝ったら勝ったで、また世界ランカーとやれる権利がある。王者として、その権利をわざわざ放棄して辞めるのはどうかと思う部分もありまして…」
金本「今、俺はいらんこと言えないな(笑)」
長谷川「めちゃくちゃ、影響受けますよ。金本さんから『やれ!』と言われたら、すぐやります(苦笑)」
金本「どっちが自分の美学なんだろうな。長谷川穂積というボクサーを客観的に見た時に、どっちが自分の美学か、どっちが自分らしいのか、自分らしいのはどういう辞め方なのか…」
長谷川「金本さんはどうだったんですか?ベテランになった時、若いころに比べて、衰えを感じたことはありましたか?」
金本「俺は(右肩の)ケガでダメになったからね…。42歳でケガをしたんだけど、フルイニング出ることに関しては、41歳のシーズンから『毎日、出るのはしんどいな』って思ってた。以前のようにバットが振れなくなったな…とか。これって衰えの部類。単発では衰えてないけど、疲労回復という部分でね。夏場の6連戦の6試合目とか、確かにしんどかった。フルイニングはそろそろ潮時だなって思っていて…。そうしたら次のシーズンにケガをしたんよ」
長谷川「ケガしていなかったら、翌シーズンも…」
金本「いや、フルイニング出場はなかったと思うよ。格好つけて『そろそろ、ケリつけます』と言っていたかも…。41歳の時に、もうフルイニングには限界を感じていたから」
長谷川「金本さんはそのあたりの美学をどういうふうに貫いたのですか?」
金本「自分は美学がなかった。ケガがあって美学の物差しが消えてしまって…。正直、現役をもう1年やりたかったけど、求められていないのに、そこにしがみつくのがね…。当時、球団社長に『この先をどう考えているか』と聞かれて、あっ、これは辞めてほしいんだなと思ったから、サッとユニホームを脱いだよ」
長谷川「それが美学ですよね。しがみつく人はいっぱいいるのに…」
金本「ボクサーと違って、プロ野球選手は球団に雇われている身だから。お前が決めろと選択権はくれたけど、(球団からもうそろそろという)雰囲気を感じ取ったから、潔く身を引こうと。今も球団に全く恨みはないし、それがプロだと思っているから」
長谷川「それが難しいところですよね。ところで、いきなり話は飛ぶのですが、日本ハムの大谷君って戦ってみて、やっぱりすごいんですか?素人みたいな質問なんですけど…(笑)」
金本「すごいね。特に打撃がすごい。飛ばす技術を持っている。高度な技術を…」
長谷川「天才なんですか?」
金本「天才だと思う。体が大きくなったらもっと飛ぶよ」