アレンパへの扇動者
【2月1日】
2月1日、この日一番のシゴトは毎年決まっている。監督に「新年」の挨拶をすることだ。プロ野球の元日は、まずチームの大将にしっかり声掛けしキャンプ取材がスタートする。
カントク、今年もよろしくお願いします。そう言って帽子を取ると…
「おっ。おう!」
タテジマに袖を通した岡田彰布は笑顔だった。球団史上初の連覇へ、そのスタートを切る日にふさわしく、晴れやかな面持ちで少し手をあげた。
これで大シゴトは終わり。その後、球団社長の粟井一夫、ヘッドコーチ平田勝男、チーフスコアラー嶋田章弘、チーフトレーナー山下幸志…要職に就く面々が次々目の前にあらわれ、雑談を交えながら「新年」の挨拶を交わしたわけだけど、その場に居ながら少し違和感を感じた。なぜ、メディアの人間でここに居るのは自分だけなのか?
「風さん、一応、ここ、メディアの方、ダメなんですよ…」
球団関係者が優しく教えてくれた。
えっ?いつから??報道陣の立ち入りが禁じられた経緯を聞いて納得…。どうりで記者が誰も入ってこないはずだ。これが「慣れ」の怖さである。宜野座キャンプが始まった03年から20年間ここへ来ているものだから、知ったかぶりでレギュレーションに目を通し分かった気になる。あかんやつだ。
それはそうと、岡田は宜野座の歓迎セレモニーでこんな挨拶をした。
「03年はコーチで、05年は監督で宜野座からスタートしたんですけど、タイガースは宜野座に来て3回目のリーグ優勝を成し遂げました」
つまり、監督として連覇を狙うのは今年が2度目。じゃ前回の06年2月はどんなキャンプを過ごしたのか。宜野座史を知る古株として記憶を辿ると、当時の景色が浮かんでくる。
「雨が多かったんよな…」
沖縄でも「神整備」を担う阪神園芸施設部長・金澤健児も覚えている。聞けば、06年は20年間でグラウンド状態が「一番悪かったキャンプ」だったそうだ。なるほど。金澤さんも前振りがうまい。ということは、外気温25度、これだけ青空の広がる今年は?
「悪いんよ。最近、宜野座に雨が降らなさ過ぎて、硬いところが何カ所かあってね…。でも、今年は良くなる」
土は生き物。難しいものだ。
「風さん、こんにちは!」
おっ、僕と同様近々のルールを知らない古株が…いや、そんな呼び方しちゃ彼女のファンを敵に回してしまう。
ヒロド歩美アナである。
やっぱり「元日」は阪神キャンプに来るんだ?
「はい、昨年に続いて来ました」
さすが“元トラ番”アナ。
彼女は「報道ステーション」の取材で来沖し、夕方の便で同番組キャスター松坂大輔の待つ宮崎へ…。そんなヒロドアナは宜野座で虎将にインタビューし、門別啓人の話になったそうだ。岡田が初めて連覇を目指した20年前に生まれた左腕が、アレンパへの扇動者になれば…そんな「初夢」を見たくなるプロ野球の正月である。=敬称略=