粘り強~い人気の「じねんじょ列車」
「電車に乗りながら掘るんやろ?」「僕、最近あっちのほうが…やっぱ、効くんですか?」取材前からさまざまな反響を呼んだ今回の訪問先は、岐阜県は明知鉄道。通称「あけてつ」が季節運行する「じねんじょ列車」である。秋冬の味覚であるじねんじょ料理を頂きながら、車窓の景色をめでる。粘り強い人気を博す、片道約1時間のローカル線の旅に出た。
【じねんじょ料理】
この日の乗客は28人。平日にもかかわらず、満席である。貸し切られたひとつの車両にテーブルを向かい合わせ、お膳は既にスタンバイ。列車で食べるという初体験にモジモジする筆者をよそに、車内は早や宴会ムード。旅の黒帯たちに負けじと、さっそく料理に箸をつける。
あまごの塩焼き、山菜といった山河の幸を中心に、じねんじょのたたき、むかご(じねんじょの種)の山葵和(わさびあ)え。メーンは麦飯+じねんじょとろろ(お代わり自由!)とじねんじょ尽くし。
地元の仕立屋さんが乗り合わせて、特大のすり鉢からたっぷりかけてくれる。皮ごとすりおろした茶色いとろろは、見るからに粘りが強い。口いっぱいに広がる濃厚な風味と滋味に、自然と笑みがこぼれる。「おかわり!」あちらこちらから声が飛び、車内は大にぎわいだ。
風景もごちそう
“とろろ所望パワー”に圧倒されるなか、ふと車窓に目を移すと、景観が素晴らしい。高原地帯を、着実に上っていく“あけてつ”は、山岳鉄道とはまた違う野趣がある。普通路線としては“日本一斜めの場所にたつ駅”「飯沼駅」。景観保存地区に指定されている山里の風景。田んぼや川、そして山をわけ入ること1時間、終点の明智駅に着いた。
ちなみに復路は無料のフリーパス。ぶらり途中下車を楽しめる。 結局とろろご飯を何杯食べたろうか。遅れてやってくる、お腹の張りとみなぎる元気。食べ過ぎたかたは花白温泉でほっこり、みなぎったかたは日本一標高の高い山城・岩村城跡に登ってクールダウンしてほしい。
【岩村駅~伝来東当時のカステラ】
年輪が染み込む木造建築に、ストーブがたかれた待合室。古き良き日本の駅舎では切符鋏(ばさみ)が現役で使われている。2004年まで実働していた腕木式信号機も展示され、見学者は実際に体験することができる。
駅を降りて徒歩40分ほどで、日本一標高の高い山城(岩村城跡)が。美濃の城下町の名残が色濃い街道沿いには老舗が並び、210余年続く松浦軒本店のカステラもそのひとつ。長崎に留学していた医師が、当時栄養価値の高かったカステラを薬として持ち帰ったのが始まりとか。山奥ゆえ、製法、カタチを変えることなく、日本伝来当時の姿を今に伝える。長崎にすら残っていない貴重な存在なのだ。
◆明知鉄道 旧国鉄を引き継いだ第三セクター。昭和60年の開業とほぼ同時にグルメ列車を運行させた名物路線。冬はじねんじょ列車を中心に、猪鍋列車(花白温泉で食事&入浴)なども運行(ともに1人5,000円で要予約。来年3月30日まで)。秋はきのこ列車が人気。12月2日から明智駅構内でSL車両を常設展示、将来的には動態保存を目指している。問い合わせはTEL0573・54・4101。