広島&松山~「大人の18きっぷ」で
JRから「松山・広島割引きっぷ」という便利な切符が発行されているのをご存じだろうか。カンタンにいえば、行き帰りののぞみと、広島、松山間のフェリーがセットになった割引切符である。広島と松山ではそれぞれ自由周遊区間が設けられていて途中下車が可能。行き帰りは弾丸で、現地に着いてからは、ゆったりローカル線の旅を満喫。そんな“大人の18きっぷ”な旅にでた。
◆1日目・広島
1度でいいから瀬戸内マリンビューに乗りたい-。というと、どんな豪華列車かと思われてしまうかもしれないが、呉線を走る観光列車である。ただ、土・日・祝に1本のみ、そして広島駅を10時に出発し終点・三原まで往復すると約6時間かかる行程は、欲張りな筆者には縁がなかった。が、今回は呉からフェリーで松山に行く。おのずと呉線に乗るならば、どんなに短い距離だろうと念願を果たすべきだ。
羅針盤や地図といったオブジェに木目調の内観。そこはまるで客船のキャビンのようだ。オーシャンビューを楽しめるよう大きくしつらえられた窓には、風光明媚な瀬戸内海がいっぱいに広がる。これまた船を思わせる丸窓から差す陽光は、どこまでも暖かい。 海岸のすぐそばまでせりだす終点・三原付近は一番のハイライト。しかし今回は序盤の呉で途中下車。後ろ髪をひかれる思いで、46分のマリンビューの旅を終えた。
◆2日目・松山
1度でいいから、あの絶景を写真に収めたい。青春18きっぷのポスターにもなった下灘駅は、海のすぐそばに佇む無人駅。「思わず降りてしまう、という経験をしたことがありますか」というキャッチコピーが心に残った。
「思わず降りてしまう」、それだけでも十分魅力的な体験だ。だが今回はワンランク上のミッションをこなしたい。下灘駅が面する伊予灘は夕日のメッカでもある。「海を望む絶景の駅」+「列車」+「夕日」をワンフレームに収められないものか。夕日が沈むころに走る列車は1時間に1本。シャッターチャンスは1度きり。
下灘駅に着くと、すでに10数人のマニアたちが集まっている。無言の熾烈(しれつ)なポジション争いに敗れた筆者は、駅の裾からその瞬間を待つ。沈みだすと早い太陽の動きにハラハラするものの、絶妙のタイミングで列車がやってきた。無心でシャッターをきりまくる。
夢見た絶景、ローカル線の魅力が詰まった1枚。究極の自己満足を肴(さかな)に、今夜は松山で存分に飲むことにした。