バレ54号“悪球打ち”で日本記録王手
「ヤクルト3‐9広島」(10日、神宮)
ヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手(29)が10日、神宮球場で行われた広島(20)戦の一回に前田健太投手(25)から今季54号本塁打を放ち、シーズン最多本塁打のプロ野球記録55本(64年=王貞治、01年=タフィー・ローズ、02年=アレックス・カブレラ)にあと1本とした。王手をかけた後の第2~4打席は不発。九回1死一、二塁で迎えた第5打席は遊ゴロ併殺打に倒れた。残り23試合でプロ野球記録に挑戦する。
度肝を抜いた。一回2死一塁。バレンティンは、頭の高さはあろうかという完全なボール球を力任せにスイングすると、詰まりながらバックスクリーン左へ運ぶ54号2ラン。これで85年のバース(阪神)に並び、王貞治(巨人)、ローズ(近鉄)、カブレラ(西武)の持つシーズン最多55本塁打に、王手をかけた。
まさかスタンドまで運ばれるとは思わなかっただろう。投げた前田健も、あっけにとられた表情で立ち尽くすしかなかった。「本当は手を出してはいけない高さのボールだったが、ボールに対してはバックスピンが利く角度でバットを入れることができた」
カウント1‐2。151キロの明らかなつり球に、バレ砲は反応した。大根切りと言わんばかりのスイングだったが、「あの打席は1球しか変化球がなかった。真っすぐ1本に絞って、芯で捉えることができた。ああいうボール、そう毎日は打てないけどね」と、納得の表情。リーグ一の右腕から放った、まさに“驚弾”。池山打撃コーチも「あの高さのボールをホームランにできるのは、バレンティンしかいない」と深くうなずいた。
一気に55号の金字塔まで‐。圧巻の一撃が期待感を膨らませ、がぜん、神宮の杜のボルテージは高まった。だが、“M1”となって迎えた第2打席以降は、無安打2三振、1四球。「さすがに54本を打った後は、ひしひしと緊張感が高まってきた。日本記録の3人の方に肩を並べると思うと、ここまで来たんだなと、緊張してきたよ」。バレ砲は苦笑いも交えながら、心境を率直に明かした。
また、この日、プロ野球新記録となる56本塁打を打てば、球団から報奨金500万円が出ることも決まった。11日の広島先発は、今季3本塁打と相性抜群の大竹。タイ記録、そして一気に新記録へ踏み出す舞台は、整っている。