宮本ショートで引退!最後“楽しめた”
「ヤクルト2‐3阪神」(4日、神宮)
「慎也のショートは日本一」‐。右翼席から降り注ぐ応援歌が、心にしみた。降りしきる雨の中、ヤクルト・宮本は思わず右翼席に駆け寄ると、フェンスをよじ登り、ファンに感謝の肉声を届けた。「ありがとう」。神宮の杜は、希代の名手との別れを惜しんだ。
宮本にとって原点ともいえる遊撃の定位置で、19年間の現役生活に幕を下ろした。「2番・遊撃」。ラストゲームでスタメンに名を連ね、ゲームセットまで躍動。延長十回には、上本の放った三遊間を抜けそうな打球をダイビングキャッチで内野安打に食い止めた。
「ショートって、こんなに大変なポジションだったんですね」。遊撃での先発出場は10年5月21日のロッテ戦以来3年ぶり。苦笑いの中に、悔いなく野球人生を終えたすがすがしさがにじんだ。
延長十一回、現役最終打席は、サヨナラアーチかと思わせる左翼への大飛球。「僕らしくていいかな」。打って、守って、走って、42歳は最後まで全力プレーで魅せた。
プロ入り当初から欠かさなかった早出特打を、この日も当然のように行った。クラブハウスに一番乗りすると、室内練習場へと直行。「入団したときから、毎日やってきたことだから」。泥くさく努力を重ね、はい上がってきた反骨の戦士。だからこそ、8月26日の引退会見で「野球を楽しいなんて感じたことはなかった」と漏らした。
「打てないんじゃないかという不安、エラーするんじゃないかという恐怖」…。だが、去りゆく名手は、最後に気づくことができた。「引退会見後、打席に立つだけで、ファンの皆様の温かく大きな拍手、声援を頂いた。苦しかっただけのグラウンドで、私は幸せ者だったんだと感じました」。紛れもなく愛された野球人だった。