星野監督の秘めた思い…友に届けたい
9月26日、楽天・星野仙一監督が所沢で7度宙に舞った。球団創設9年目で成し遂げたリーグVだった。
一夜明けて千葉に移動した後、球場に出向いてゲーム前に会った。「いや、疲れたわ。ホンマに疲れた」。顔がむくみ、ベンチからロッカーに向かう足取りもおぼつかない。まだクライマックス・シリーズを残していたものの「日本シリーズは虎(阪神)とやりたいなあ」と笑ってみせた。なんともボンヤリとした風情だった。
66歳。いまの20代の担当記者たちにとっては、少し若い祖父といった世代に当たるだろうか。ギラギラした「闘将」のイメージは薄まり、むしろ好々爺の雰囲気すら漂わせる。
かつては違った。優勝の祝意を伝えて「もう無理は利かない年齢なんですから」などと偉そうに言葉を掛けた私にとって、彼は何年経っても何歳になっても、恐ろしくて近寄りがたい存在に変わりない。
番記者時代にすさまじい殺気に触れた経験が2度ある。最初は1989年2月、豪州・ゴールドコーストでのキャンプの時。悪天候について質問した際、怒号とともに「若造のおまえに何がわかるんや」と体ごと迫ってきた。2度目は翌年のシーズン中。外国人選手の補強について書いたデイリーの記事に、だれもいない午前中のナゴヤ球場のグラウンドに呼び出され‐。
血気盛んな青年指揮官が歳月を積み、幾たびかの栄光と屈辱を経験して今回、宿敵だった巨人との日本シリーズに臨む。セ・パで計4度のリーグ優勝。史上12人目の監督通算千勝達成。残された宿願が、過去3度の挑戦で果たし得なかった日本一の座だろう。
◆星野監督の過去の日本シリーズ成績
1988年 中日【1勝‐4勝】西武(森監督)
1999年 中日【1勝‐4勝】ダイエー(王監督)
2003年 阪神【3勝‐4勝】ダイエー(王監督)
いずれも対戦相手の監督は巨人出身であり、因縁めいたものも感じる。データが示す短期決戦に対する不得手さ。果たして乗り越えられるかどうか。田中将大という「絶対エース」をチームの核に据える今回は、星野監督にとっても最大のチャンスと言えるかもしれない。
その宿願を果たした時、物言わぬ友に思いを届けたいと考えている。「やっと日本一や、島ちゃん」と。
過去3度の日本シリーズは、常に盟友・島野育夫とともに戦い、敗れ去った歴史でもある。日本のプロ野球界が生んだ屈指の参謀であり、軍師であった島野氏を、星野監督は公私で支えとしてきた。楽天を率いての今年のパ・リーグ制覇は、だからいままでとはまた違った意味合いを帯びる達成の瞬間だった。
闘病中の彼を見舞い、手を握り、もう一度一緒にと励ましてから数時間後、他界の報が入った。2007年12月15日。享年63。後日、島野氏の妻・美智子さんから「ちょうど私たちの結婚記念日だったんです」と聞かされ、星野監督は言葉を失う。
4度目となる日本一への挑戦。CSも制し、パの代表として、かつての殺気を再度身にまとい、闘将は巨人にどう牙をむくのか。
記念日に逝った友に贈る思いがある。折に触れて兵庫県西宮市にある墓所を訪ね、問いかけてきた。別れを告げたあの日から6年が経つ。7回忌の法要が、12月に営まれる。
(デイリースポーツ・善積健也)