日本シリーズで予告先発は必要なのか?

 日本シリーズが佳境に入ってきた。挑戦者・楽天VS王者・巨人の図式で、11月2日から舞台を仙台に移す。

 今年の日本プロ野球を締めくくる熱戦が大いに期待されるが、個人的に残念に思ったのはシリーズ史上3度目となる「予告先発」の実施である。

 日本シリーズは原則「予告先発」は行われないが、両チームの監督が同意すればOKとなる。今年はお互いに気心が知れた原監督と星野監督の間で決まった。もちろん、「ファンあってのプロ野球」が前提にある。

 85年、パ・リーグは日曜日を対象に「予告先発」を始め、94年からは全試合で実施。セ・リーグも12年から導入。同年、セ・パ交流戦でも実施となった。

 ファンに関心を持ってもらい、サービスの一環とする。これが狙いだが、その一方でファンから「先発投手を予想する」という大きな楽しみを奪っているのも事実だ。

 ファンが球場に足を運ぶ。試合前の先発投手アナウンス。オレの予想は当たりか、それとも外れか。ウグイス嬢の発表とともに時に歓声が起き、時に落胆が漏れる。「予告先発」導入前のいつもの光景だった。

 先発投手を誰にして、どうやって回していくか。プロ野球の監督にとって、大きなテーマであり、頭を使う課題だ。長丁場のシーズンはもちろん、日本シリーズのような短期決戦となれば尚更だ。

 いまでも思い出すのは1990年(平成2年)、藤田巨人対森西武の日本シリーズである。

 東京ドームの第1戦。巨人の先発は2年連続で20勝を挙げていた絶対的なエース、斎藤雅樹投手(現巨人コーチ)が確実視されていた。ところが、アナウンスされたのは槙原寛己投手だった。

 その瞬間、東京ドームになぜ?の塊(かたまり)となった大歓声が起こった。異様な雰囲気の中、槙原は先発マウンドに上がったが、落ち着かない。いきなり1死一、三塁のピンチを招き、デストラーデに先制の3ランを右中間にたたき込まれた。

 この1発で西武はシリーズの主導権を完全に握り、巨人に4タテを食らわせる。巨人は全くいいところなく西武の軍門に下った。

 前年の日本シリーズ。藤田巨人は近鉄に3連敗しながら、4連勝の離れ業で見事日本一の座についていた。天国から地獄だ。

 3年前の87年、巨人はやはり西武と日本シリーズで対戦した。2勝4敗で敗れたが、第4戦で完封勝利を挙げたのが槙原だった。

 藤田監督は西武打線に「槙原コンプレックス」があると判断したのだ。だが、3年前に在籍していなかったデストラーデが文字通り、1発で吹き飛ばしてしまったのだ。

 試合後、森監督は担当記者らにこう話した。「ナッ、だから斎藤はないっと言っただろう」

 短期決戦である日本シリーズこそ、両監督にとっては「データの活用」とともに、お互いの性格を読んで「腹の探りあい」である。如実に表れるのが先発投手の起用だ。

 今年の場合、仙台での第1戦は田中なのか、それとも則本か。読みは2つに分かれたはずである。

 観客動員数の減少対策のため、いまやレギュラーシーズンで定着した「予告先発」ではあるが、せめて日本球界の最後を飾る日本シリーズは止めて欲しいと思うきょうこの頃なのである。

(デイリースポーツ・菊地順一)

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