原監督、勝負の世界チンが上がるとダメ
1イニング3発9失点で10差‐。甲子園が敵軍の凄まじい波状攻撃に沈黙、そして慟哭(どうこく)した9月8日。和田阪神が決定的な差をつけられたその試合を、敵将の巨人・原辰徳監督(55)はどう考えて戦っていたのか。「デイリーが聞く」で、その真相を明かした。
‐9月8日の阪神対巨人23回戦(甲子園)で、僕は心臓をえぐられる思いがしたんですよ。この試合まで首位巨人と2位阪神とのゲーム差は9。もし巨人が勝てば10差になる試合で、0‐1から六回表に一挙9点を奪って逆転勝ちしました。その六回、逆転直後の無死一、二塁から4番・村田にバントを命じています。投手は榎田の後を継いだ19歳の松田。8月のリーグ最多安打を記録するなど絶好調だった村田ですし、普通に打たせてもと思ったんですが、あれが巨人には“あり”なんですね。
「やっぱり野球は点取りゲームなんだから。ホームを多く踏んだチームが勝つわけだから、そのための一番確率のいい野球…僕にとっては不思議でも何でもないんだよね。ジャイアンツ担当の人から見ると『そうだな』って多分思うはずですよ(笑)。去年もそうだったよな」
‐そのあたりに阪神が負ける要素があるわけですわ。
「サインの伝達にしても、全くスムーズだったしね。多分村田自身も『バントだろうな』というのが8割あったと思いますよ。僕たちは2月1日のキャンプインの時からもうそれをやっているわけだから(笑)。4月、5月にそういう野球をしようとは思わないけどね」
‐あの試合まで2位阪神とのゲーム差が9でした。8も9も開いたら…。
「そんなことするな、と(笑)」
‐いや、するな、じゃなくて、しないだろうと思ったわけです。
「だって、勝つという、優勝できるという確証があるならばいいでしょう。勝負の世界はねぇ。昔の人は『勝負は下駄を履くまでわからない』って言ったけど、ミスター(長嶋茂雄終身名誉監督)に言わせると『下駄を履いても…』と、僕らは教えを受けてきたわけですよ。その部分からいくならば、あのワンゲームを勝利するということが非常に大事だと」
‐ゲーム差は関係なしに、ですか?
「ゲーム差は…でも2位チームですから。阪神の底力ってなものがどっかにあるぞ、というのが僕の心の中であったのかもしれないけど。やっぱり勝負の世界というのは、少しチン(顎)が上がるとダメだね。顎が上がると足をすくわれるような気がします」
(続けて)
「選手たちは顎が上がって有頂天でプレーする時がありますよ。それはそれで度が過ぎるとカッと言えばいいんだけど、そんな中で野球をすることが、いいことにつながる時もあるんです。ただ僕ら監督、コーチというのはダメだと、それは。いつ何時においても。やっぱり、目線を下げて地に足をつけておくことが大切だと思いますね」
‐あの1ゲームで心臓をえぐられた阪神はそこからガタガタと失速していきました。あそこまで原監督がやるということは、1カ月後のCSを見据えてのものだったんでしょうね。
「それもありますよ。それもあるし、やっぱり伝統の巨人‐阪神、阪神‐巨人というのは、野球界のみならず、世界のチームスポーツの中で僕はトップ。それを育みながら、守っていくという部分においては、タイガース戦はやっぱり全力で戦ってしのぎ合う、雌雄を決するというものを強く持たなければいけないことだと思いますね」
‐今年の阪神は“しのぎ合える”チームでしたか?
「かなりの戦力補強をしてチームがガラッと変わったなあと。今までのベテランがいなくなってね。それでも投手力というものの強さ…ただ後ろの方にまだチームとしての迷いがあるのかなというのは感じてはいました。でも、先発投手においてはいい投手陣を持っているし、チーム全体においても何とか変わろうと、何とか強くなろうと、何とかジャイアンツをやっつけようと、そういうものが僕らに強く伝わってきましたね。またそれを我々も『何くそ!』という形で戦いを挑んでいった、という感じがします」