履正社金岡「13」の主将、涙の同点打
「選抜高校野球・準決勝、履正社12-7豊川」(1日、甲子園)
準決勝2試合が行われ、終盤、点の奪い合いとなった第1試合は履正社(大阪)が延長戦の末、豊川(愛知)を下した。第2試合は龍谷大平安(京都)が佐野日大(栃木)に圧勝。両校とも初の決勝進出で、昨秋の近畿大会準決勝以来の対戦となる。近畿勢同士の決勝は1979年の箕島(和歌山)‐浪商(大阪=現大体大浪商)以来35年ぶり。大阪勢と京都勢の決勝は初となった。
神様も、仲間たちもちゃんと見ていてくれた。背番号13のキャプテン、金岡洋平外野手(3年)が、決勝初進出の原動力となった。
八回裏、豊川の、一挙5点の猛攻に遭い試合をひっくり返された。消沈しかねない流れの中、守備から途中出場の金岡が九回、先頭の打席に向かう。
「まっすぐ狙い。とにかく出塁することだけを考え」、振り抜いた打球はぐんぐん伸びて、左翼席に飛び込んだ。
全力疾走でベースを一周、帰って来た金岡は岡田龍生監督(52)に抱きかかえられるように迎えられ、そのままベンチに飛び込んだ。そこで待っていた同級生の八田、中山らと号泣しながら抱き合って、殊勲打の喜びをかみしめた。
2桁の背番号はつまり「試合中にプレーでナインを引っ張れない」立場。中学ではレギュラーだったが、3年の5月、ある大会で現報徳学園・岸田の打球を追ってフェンスに激突、両手首骨折で半年間野球ができなくなった。
「それまで“てんぐ”でしたが、あのけがで、出られない人の気持ちも分かるようになった」
そして昨年、新チームの主将に指名されたがレギュラーにはなれず。しかしその分、雑務を率先して行い、また「練習がしんどい時こそ僕が元気に取り組んで、雰囲気をよくしよう」と心を砕いてきた。
本人は、純粋にチーム全体を思って向き合ったつらい練習だったが、知らず知らずのうちに自身の能力も高めていた。そのひたむきさに対する天のご褒美が「練習でも打ったことがない」というホームラン。そして自分のことのように喜ぶ仲間の涙だった。
両軍32人をつぎ込む死闘は延長十回、金岡の押し出し死球が決勝点となる。「“何か”が力を与えてくれた」と話した金岡の視界に、頂点が見えてきた。