「選抜高校野球・２回戦、智弁学園４－１鹿児島実」（２５日、甲子園球場）

　兄のレガースを外しながら、弟は「いけよ！！」と尻をたたいた。八回２死満塁。鹿児島実が３点を追う展開で、井戸田兄弟の兄・貴也捕手（３年）に打順が回った。次打者席には弟・智也内野手（２年）。「頼む、打ってくれ」。思いは届かず三直。２度目の校歌は歌えなかった。

　名古屋出身の２人。中学時代の指導者が鹿児島実出身だった影響で、貴也がまず伝統校に進学した。それまでは、ささいなことでとっくみあいのケンカをするほど兄弟仲が悪かった。しかし、兄と距離ができたことで弟の心境が一転。「一緒にやりたい」と熱望した。

　きまじめな兄と、やんちゃな弟。練習だけでなく寮生活や行儀に厳しい同校だけに、貴也は当初「お前の来るところじゃない」と反対した。しかし、本音は「うれしかった」。今では試合前、必ず２人で互いの背中をたたいて気合を入れる。

　弟は寮では「タカ」、グラウンドでは「井戸田さん」と兄を呼ぶ。この日、打順を１番から７番に下げられ、九回には代打も送られた。「実力不足。誰より自分が悔しい」。兄は初戦で適時打を放った。背中はまだ遠い。

　「兄弟としてもチームとしても夏に戻ってきたい」と貴也は言った。「兄弟で出るだけじゃなく結果を出す」と智也。強い絆を支えに、夏は必ず２人で聖地に快音を響かせる。