“虎の恋人”吉川 大逆転で初V王手!
「全日本大学野球選手権・準決勝、中京学院大5-4奈良学園大」(11日、神宮球場)
初出場の中京学院大が九回の大逆転劇で決勝進出を果たした。先制の適時二塁打を放ったドラフト1位候補・吉川尚輝内野手(4年・中京)は、自身の敬遠直後に飛び出した石坂友貴内野手(4年・中京)の逆転2点打に感極まる場面も。93年・青学大以来となる初出場初優勝へ、“虎の恋人”があと1勝に迫った。12日午後1時開始の決勝(神宮)で、中央学院大と対決する。
何度も言葉を詰まらせた。こみ上げる感情を抑えきれなかった。九回、2点差をひっくり返した奇跡の大逆転劇。「ここで終わるんじゃない」-。そう神様が言ったかのようなゲームに、吉川は「ビックリしてます。今大会は1回勝てればいいと思っていたので」と興奮を隠せない。
ラストシーンは九回。1死満塁から南の三ゴロ併殺崩れの間に1点差に迫り、なおも2死一、三塁で迎えた第5打席だった。初回に先制の右中間適時二塁打を放った残像がよぎったのか-。相手ベンチは逆転の走者を得点圏に背負うリスクを冒しても、吉川を敬遠四球で歩かせた。
「打ちたかったですけど、最後は石坂頼むぞと。高校から一緒に野球をやってますから」と打席を離れる際、後を打つ4番に「頼んだぞ」と声をかけた。託された石坂が放った打球が二遊間を抜けると、吉川は一気に三塁へ。逆転のホームインを見届けると、思わず両腕を天に向かって突き上げた。
「下級生がチャンスを作ってくれて…。南が必死に走ってくれて、石坂が打ってくれて…。本当に感謝しかない」と声を震わせた吉川。今春、リーグ戦開幕を控えた直前の練習試合で、チームリーダーは右上腕部に死球を受けた。患部は腫れ上がり、バットも振れず、ボールも投げられる状態ではなかった。
近藤正監督(67)は開幕戦の欠場を視野に、吉川へ問いかけた。だが返ってきた答えは「行きます」-。満足にバットを振れない中でもいきなり4安打を放ち、翌日はダメ押しタイムリーを放った。
守備でも懸命に送球する姿に「あれで4年生が一丸になってくれた」と語っていた指揮官。「何としても神宮に行きたい」の一心で突っ走ったからこそ、野球の神様は吉川に“最終章”のページを与えた。頂点まであと1勝-。大学王者という最高のタイトルを手に、春のストーリーは完結する。