市尼崎・前田、同点劇の口火打 天国のおばあちゃんがくれた延長十回
「全国高校野球・1回戦、八戸学院光星5-4市尼崎」(9日、甲子園球場)
打席に入る前、胸を強く握りしめた。ポケットに入っていたお守りに念じた。「おばあちゃん、見ててな」-。2点を追う九回先頭、市尼崎(兵庫)・前田大輝外野手(3年)が外角のスライダーに食らいつくと、打球は三遊間を抜けていった。同点劇の口火を切った一打に、聖地の歓声は大きなうねりとなった。
アルプス席で観戦した家族の手には、やさしい笑みを浮かべ、孫の勇姿を見つめる正子さんの写真があった。「おばあちゃん家に行くと、いつもおいしいご飯を作ってくれた」。大好きだった祖母は昨年8月19日、急性心筋梗塞のため他界した。1人、自宅で息を引き取ったという。
病院で対面すると「寝ているようで、心の整理がつかなかった…」と涙がとめどなくあふれた。野球が好きで、入学時にスパイクとお守りをプレゼントしてくれた。練習も何度も見に来てくれた。だからこそ「甲子園でプレーする姿を見せたかった」-。その思いを胸に、高校野球に全身全霊をささげてきた。
「最後のヒットもきっと喜んでくれたと思います。おばあちゃんの思いが僕を甲子園に立たせてくれたんだと思います」。試合後、涙をぬぐいながら前田は何度も感謝の思いを口にした。もう1イニング頑張れ-。本来なら“無かったはずの延長十回”は、天国のおばあちゃんが頑張った孫にプレゼントしてくれたのかもしれない。