山崎武司vsガルベス…球史に残る大乱闘「最後まであいつとは口もきかんかったよ」

 なぜか見ている側も血がたぎる。それが「乱闘」。1996年5月1日、中日の山崎武司が巨人のバルビーノ・ガルベスと闘った。今なお語り草となっている乱闘を掘り下げた。

 当時の選手名鑑によるとガルベス107キロ、山崎86キロ。重量級のゴングは、午後7時52分に鳴った。山崎が途中でバットを手放したが、マウンドに歩み寄る。ガルベスも待たずに間合いを詰めながら、グラブを外した。

 「後から考えたら、さすがに右手は大事だからね。僕は右ばかり注意していたから左が当たってしまった。こっちは首根っこつかんでヘッドロックして…。でも後ろからボコボコ蹴られてね」

 2人で闘えたのはわずか数秒。両軍ベンチは空っぽとなり、巨大な密集ができあがった。バットを手に持ち乱入しようとする者あり、それを取り上げ遠くへ放り投げる者あり。脚本家などいなくともその場で配役が決まる。主役の山崎は、予期せぬ左のパンチをもらい、唇から出血した。

 五回の先頭打者。141キロの速球は、山崎の頭をかすめたが死球ではない。だが、当たろうが当たるまいがこの一球が偶然だとは誰も思っていなかったはずだ。恐らくガルベスは意図的に投げ、山崎も予測していた。

 「直前に小島さんが落合さんの背中に当てていたし、それまでにも伏線はあった。だから僕は『来たら行きますから』とベンチに伝えてから打席に向かったんです」

 巨人の4番も死球を受けていたが、山崎は前日にも岡島から左肘に当てられていた。さらに2週間前はコールズも死球を…。報復の連鎖。互いに怒りのガスは充満していたのだ。

 ようやく密集はほどけたが、試合は再開されない。両者退場は納得できないと長嶋監督が選手をベンチに引き揚げさせたのだ。放棄試合寸前まで長嶋は態度を硬化させたが、連盟への提訴を条件にようやく再開に応じた。中断32分。主役2人はグラウンドを去った。

 この乱闘の価値を端的に示すのが、当時の中日を率いた星野の言葉だ。

 「外国人に向かっていく。今の野球でそんなことができるやつ、誰がいる?日本そのものがアメリカに弱いのに。オレは名古屋の大将や。江戸城の大将にケツを引いたらみんなが見てる。選手の手前、引けんだろ。だから行くんだ」

 屈強な外国人打者に日本投手は殴り倒されるか追い回されるか…。それが乱闘の定番だった。山崎は「日本の野球をなめられたくなかった」と牙をむいた。そこに名古屋対東京、中日対読売という構図が加わり、さらに燃える。

 この年、本塁打王、最多勝を獲得することになる2人は、そろって球宴に出場した。当時のガルベスが牛乳のCMに出ていたことから、大豊が「あの牛乳を持っていこう」と仲介役を買って出た。だが、山崎はきっぱりと断った。ガルベスも次の対戦の最初の打席で、山崎に当てた。しかも満塁からの押し出し。山崎は言う。

 「最後まであいつとは口もきかんかったよ。今はWBC(の日本代表)で他球団でも友達感覚になっちゃうから。乱闘は…。いいことじゃないけど減ったよね」

 薄れゆく球場の緊張感。乱闘は野球の華というのは時代が許してくれないのかもしれない。

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