パ最速!ソフトバンク歴史的優勝 屈辱V逸から1年…工藤監督男泣きで7度舞う
「西武3-7ソフトバンク」(16日、メットライフドーム)
歴史的V逸の翌年は歴史的V奪回だ。ソフトバンクが2年ぶり18度目(1リーグ時代を含めると20度目)の優勝を、パ・リーグ最速で果たした。2年前の記録を1日更新した。昨年は日本ハムに最大11・5ゲーム差を逆転される屈辱を味わった工藤公康監督(54)は、試合後のインタビューで涙。就任3年で2度目の頂点に立った。ソフトバンクは10月18日から本拠地でCSファイナルSを戦う。
あふれる感情を抑え切れない。7度宙を舞った胴上げ後の優勝監督インタビュー。マイクを向けられた工藤監督が声を詰まらせた。「リーグ優勝を昨年はできず、クライマックスで負けてから1年弱…、このことだけを…思って…」。くしゃくしゃの顔に涙が流れた。
「選手たちが勝った瞬間の笑顔が見られて本当に良かった。屈辱を絶対に晴らすんだという強い思いを持って戦ってくれた」
悔しさに向き合うことから再出発し、頂点に返り咲いた。昨季は最大11・5ゲーム差を逆転されてのV逸。采配への批判が嫌でも目や耳に入った。「結果がすべて」と理解しているが、優勝を義務づけられるチームの指揮を執る意味を、痛いほど思い知らされた。
当然、迷いも出た。プロ入り時の監督で師と仰ぐ広岡達朗氏からは「いろいろ言われても自分の思った通りに進め」と、電話越しに励まされた。敗者となって数日後。自宅近くの喫茶店の奥まった目立たない席に一人腰かけた。アイスコーヒーの横に真っさらなノート。人前で見せない眼鏡をかけ、屈辱に正面から向き合い、今季へ向けてペンを走らせた。立ち止まっているわけにはいかなかった。
V逸の要因の一つは夏場以降の失速。「投手も打者も一度(状態が)落ちると戻るまで時間がかかる」。いかにシーズンを通して力を発揮させ続けられるか-。覇権奪回への道筋を見つめ直した。その「Vロード」を走り、楽天が首位に立ち続けてもぶれなかった。相手がローテ変更で主戦級をぶつけてきても、石川、松本裕ら経験の少ない若手に先発を任せた。
「最後に頂点に立つ」ことからの逆算。打の主軸を試合終盤で途中交代させたことも少なくない。昨季失速した終盤に強烈なスパートをかけぶっちぎったVは、誰よりも屈辱を味わった男の意地だ。
2年越しの約束も果たした。昨夏、地震後の熊本へ足を運びVを誓ったが、届けられなかった。冬に再訪した際は保護者らが畑を改造した仮設グラウンドで球を追う子供らを目にし、あらためて優勝を約束した。「勝つことで少しでも元気になってくれる人がいる」。7月には九州豪雨で被害を受けた福岡県朝倉市をお忍びで訪問。子供らの列が途切れるまで日が暮れても色紙にペンを走らせた。
昨年12月末。自宅のある横浜市内に球団幹部が足を運んできた。当初は今季が3年契約の最終年だったが、打診されたのは新たな3年契約。さらなる「常勝軍団」の構築を託された。今季は1カ月おきに2、3軍の投手コーチとミーティング。育成選手に至るまで全投手の映像を確認し、一人一人の育成プランを練ってきた。
秋山前監督からバトンを引き継ぎ就任1年目で優勝を飾った15年。東浜、千賀、岩崎をほぼ1年を通じて2軍の先発ローテで固定起用した。同年秋のキャンプでは自らも汗だくになり厳しい指導を続けた。
今季の東浜はリーグ最多の16勝。千賀はここまで13勝、岩崎は同じくリーグ最多の68試合の登板でVを支えた。「彼らは『ホップ、ステップ、ジャンプ』の、まだステップ」。工藤ホークスの真価は、もっと先にある。