創成館・七俵 祖父の優しさ詰まった千羽鶴
「選抜高校野球・準々決勝、智弁和歌山11-10創成館」(1日、甲子園球場)
夢が詰まったマウンドを見つめることしかできなかった。創成館(長崎)は壮絶な乱打戦に敗れ、サヨナラ負け。延長十回だ。ブルペンで準備を続けるさなか、七俵陸投手(3年)の春は突然終わりを告げた。
「センバツ投げるけん」
祖父・加々美毅さん(71)の戦いのきっかけは、孫の一言だった。甲子園出場を願って昨夏、折り鶴作りを開始。一年計画の予定ではあったが、急ピッチで晴れ舞台に間に合わせ聖地へ駆けつけた。
孫の活躍が心の支えでもあった。創成館に入学した2016年4月、熊本地震が発生。熊本市内に住む加々美さんの自宅は大きく崩れた。寮生活だった七俵が、それを知ったのは地震発生から2日後のことだったという。
「大会もあって、心配させないようにしてくれたみたい」。一大事の時でさえ、自分のことを考えてくれる家族の温かさに、プレーでの活躍を誓った。
約束の舞台となった3月30日の智弁学園戦。七俵はまっさらなマウンドに立っていた。その姿に「立派ですよ」と加々美さん。先発で3回を4安打1失点と好投し、声援に応えた。
2人の間のやり取りは短いメールだけ。「頑張れよ」「頑張る」。最後まで鶴のことは何も知らされなかった。祖父からの心からのエールに「夏にまた帰って来られるように、野球で喜ばせたいから」と七俵。静かに揺れる千羽の鶴が優しく飛んでいた。