泣くな輝星!100回目の夏の主役は君だった…金足農エース1517球で力尽く
「第100回全国高校野球選手権・決勝、大阪桐蔭13-2金足農」(21日、甲子園球場)
秋田の、東北の悲願はかなわなかった。金足農(秋田)のプロ注目右腕・吉田輝星投手(3年)は6試合連続で先発したが、5回12失点。大阪桐蔭(北大阪)打線に圧倒され、地方大会から一人で投げてきたエースが初めてマウンドを譲った。東北勢初の全国制覇はあと一歩で逃し、深紅の大優勝旗を地元へ届けられなかったが、100回大会を最も盛り上げたのは間違いなく吉田だった。
歯が立たなかった。五回無死一塁で吉田が打席に迎えたのは、大阪桐蔭・根尾。140キロの直球を完璧に捉えられた。バックスクリーンに吸い込まれていく打球。「もっていかれたな」。ぼう然と見送ることしかできなかった。
絶対王者の破壊力にのみ込まれた。直球を簡単に合わせられ、結局五回の1イニングで7安打を浴び6失点。投げていくうちに下半身の張りも感じ始め、「全力で投げたボールを打たれてすごく苦しかった」と唇をかんだ。秋田大会から被本塁打0だった右腕がこの日だけで2被弾。完敗だった。
普段の強気も消えかかっていた。猛攻に遭った五回途中。菅原天空(たく)内野手(3年)に駆け寄られると、「もう投げられない」とポツリ。これまで仲間が見たことがない弱音。たまらず菅原と主将の佐々木大夢(ひろむ)外野手(3年)が、中泉一豊監督(45)に六回からの降板を進言した。
決勝前夜の決意を貫けなかった。「マウンドは俺の縄張り」「死ぬ気で全力投球」-。「覚悟」の文字が汗で消えた帽子のつばに、新しく書き加えた言葉だ。自分が最後まで投げ続けると誓ったが、指揮官から交代を告げられると「ボコボコにやられたので、しょうがない」とうなずき右翼へ回った。
「東北に優勝を届けられず、すごく悔しい」と試合終了直後に涙を流したが、“カナノウ旋風”を巻き起こした881球は立派な勲章だ。秋田大会5試合の636球を合わせ、この夏の球数は1517球。劣勢でも大観衆から金足農への応援は鳴りやまなかった。その中で最も大きな歓声を浴びたのは、間違いなく吉田だった。
準決勝で注意を受けた“侍ポーズ”も最後の聖地では思い切り披露し、スタンドを魅了した。相手4番・藤原も「質が違う」と舌を巻いた直球の威力は本物だ。「(根尾、藤原と)プロで対戦して抑えたい」とは話したが、進路については未定。100回目の夏に、グッドルーザーは確かに輝いた。