日本ハム・石井裕 打撃投手転身“サイレントK”の静かなる闘志
【第2の人生へプレーボール】
9月30日・西武戦(札幌ドーム)で行われた引退セレモニーから3カ月。石井裕の姿は千葉・鎌ケ谷の2軍施設にあった。「ファイターズには感謝しているので、恩返ししないといけないね」。球団から打撃投手の打診を受け、快諾。早速、来季に向けてトレーニングに取り組んでいる。
中日-横浜-日本ハムと渡り歩いてきたプロ14年間。先天性難聴というハンディを抱えながら、通算330試合に登板した。「すごく時間はかかりましたけど、一対一でコミュニケーションを取ることが一番大事だということが分かりました」。特に印象に残る試合として挙げたのが、05年4月13日・広島戦(豊橋)。記念すべきプロ初登板の大舞台で、初球の真っすぐを前田智徳(現野球評論家)に右翼席へ運ばれた。
「ど真ん中に入ってしまって…」。ベンチに戻ると捕手・谷繁元信(現野球評論家)が鬼の形相で近づいてくる。「『もっと厳しく攻めてこい!』と。言っていることはよく理解できなかったけど、なんとなく怒られているのは分かりました」。反省する一方、喜びを感じていたという。
「僕のような障害者にはみんな優しいんですよ。でも、ダメな時は厳しく叱ってほしかった。谷繁さんには本当に感謝しています」
2度目のトレードで日本ハムに移籍し、2度のリーグ優勝と16年は日本一も経験。そして今年、“サイレントK”と呼ばれた男は「チームメートに恵まれて、ファンにも恵まれて、本当に幸せでした」と現役を引退した。
「最後まで諦めず、自分の努力で頑張ってほしいなと思いますね」。同じ障害を持つ子供たちへ、これからも左腕を振りながらメッセージを送る。優しく、そして厳しく。
◆石井 裕也(いしい・ゆうや)1981年7月4日生まれ、37歳。神奈川県出身。178センチ、80キロ。左投げ左打ち。投手。横浜商工から三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2004年度ドラフト6巡目で中日入団。05年4月13日・広島戦(豊橋)でプロ初登板(中継ぎ)。08年途中の横浜移籍から10年途中に日本ハム移籍。通算成績は330試合19勝19敗6セーブ83ホールド、防御率3・05。