元阪神・郭李の通訳務めた台湾出身の林さん 京都で古民家民宿の主に
京都市中心部。観光客でにぎわう大通りから少し離れた場所に4月下旬、1日1組限定の古民家民宿「翔縁居」がオープンした。外国人ゲストを中心にした宿を営むのは台湾出身の林光中(50)さん。かつてプロ野球の阪神、中日で働いた、異色の経歴の持ち主だ。
日本在住歴は25年。流ちょうな日本語で宿の魅力を語る。「この辺りは歴史的な場所も多く静かです。雅を楽しんでもらいたいですね」。築120年の古民家は改装で居心地のよい和モダンな空間に。風情のある中庭に面した縁側では、ゲストが着物姿になったり、ドラマのマネをして寝そべったりして写真撮影を楽しむという。
野球をやっていた林さんは20歳のときに名門・東北福祉大に入学。故障でプレーすることはできなかったが、ひょんなことからプロ野球界とつながった。
大学4年を前にした93年3月、台湾の代表チームで一緒だった阪神・郭李建夫投手に会いに行ったところ球団関係者からスカウトされ、注目右腕の来日1年目の通訳に。気苦労の連続だったのかと尋ねると「特に苦労に思うことはなかった。野球に集中できる環境作りを心がけたくらい」。肝が据わっていたようだ。
その後、台湾プロ野球で5年間プレーし、コーチ修行のため送り出された日本で出会ったのが、中日監督時代の星野仙一氏。「初めてお会いしたときに1時間半ずっと野球の話をしてもらって。選手のこういうところを見なさいと教えてもらいました」と懐かしむ。
星野氏との出会いで球界とのつながりは深まり、中日で外国人の調査、獲得を行う渉外担当に。星野氏が阪神のシニアディレクター、北京五輪の日本代表監督に就任するとスコアラーなども務めた。「阪神、中日で仕事ができたのは幸せでした。本当にお世話になった」と話す。
永住権取得の際に保証人を引き受けてくれたのは星野さん。その仕事ぶり、人柄を認めての親心だったのだろう。「星野さんと出会ってなかったら、間違いなくこんなに長く日本にいることはなかった」。亡き恩人への感謝は尽きない。
出会いによって、日本と深くつながってきた人生。気がつけば「人生の半分」を過ごしている。ご近所さんとあいさつを交わし、笑顔でゲストを迎える姿は自然体だ。「楽しみに来られる方たちに、いかに最高の環境を作ってあげられるか。日本の方が言う『おもてなし』ですよね」。裏方として選手や監督を支えてきた対応力、気配りの心は、宿の主としても発揮されている。(デイリースポーツ・若林みどり)
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