プロ初勝利のヤクルト吉田大喜 相棒の真っ赤なグラブの秘密
「ヤクルト8-2DeNA」(7日、神宮球場)
最高の景色が広がっていた。はにかみながら見せるのは無邪気な笑顔。ヤクルトのドラフト2位の吉田大喜(日体大)が、歓喜にわくスタンドを見上げた。「なかなか勝てなかったので、やっと勝ててうれしいです」。プロ初勝利で、チームは2位浮上だ。喜びは表情に伝った。
立ち上がりから変化球を低めに集め、危なげない投球で魅了した。「投げるごとによくなるように」と、ぶつかった課題と必死に向き合い続けた。自己最長となる6回を6安打2失点。仲間の援護や好守が、念願のプロ初白星へ背中を押した。
左手にはめられた真っ赤の相棒が、吉田喜にとっては最大の味方だった。父・英樹さんが営む「すみれスポーツ」のグラブだ。「プロでは僕しか使っていないので、活躍して宣伝するのが親孝行ですね」。大冠高時代から始まった父と子の二人三脚。家族の絆が確かな力に変わった。
赤と黄色、黒と水色を基調とした3つのグラブを、吉田喜は大切そうに両手で抱えた。「自分が好きな色ですね」と笑う。大きなサイズを試しては、小さいサイズを試したり…。試行錯誤しながらたどり着いた唯一無二のグラブが、この日もしっかりと左手にははめられていた。
高校時代にもプロ志望届を提出したが、指名漏れという悔しさも味わった。4年越しにかなえた夢、始まりの舞台だ。父の経営する「すみれスポーツ」は、右腕が投げる日は休業や時短営業に変わる。家族から受ける無数の愛。吉田喜は「試合を見るためだと思います」とし、思いに応えるため、懸命に腕を振った。
「ケガなく、無理しないように頑張れ」
優しい言葉と共に、プロの世界へと送り出してくれた両親へ。ウイニングボールは、感謝の証しとして届ける。「お父さんがやっている店に飾ってもらえるように」。笑顔の1勝目だ。ここから吉田喜の物語は始まっていく。